‘The Jockey’ public house and Grandstand Bar
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前回は、PJMが2017年6月末公開したペーパー「Demand Response Strategy」のDemand Response Backgroundの部分をベースとしてDR発展の歴史を振り返りました。 今回は、同ペーパーのDR Service Modelsあたりをご紹介します。
DRのサービスモデル
DRは、小売/卸売市場からの価格シグナルまたは、系統のひっ迫状況に応じた指示により、エンドユーザが負荷削減を行なう能力に基づいている。
ここで、エンドユーザとは、電気を使いたいために購入する小売顧客を意味する。卸売市場から直接電力を購入する商工業の大口需要家でも、自分が使いたいためだけに購入するならエンドユーザである。卸売市場で電力を購入しても、それを消費せずに別の卸売業者や小売顧客に再販するLSE、EDCおよびCSPはエンドユーザではない。
PJM管内には、約6500万世帯の一般家庭から、米国経済に大きな影響を持つ商工業の大口需要家まで、多くのDR資源調達対象となるエンドユーザが存在するが、PJMは、DR資源調達に当たって直接エンドユーザとコンタクトを持たず、LSE、EDC、またはCSP経由でDR資源の提供を受ける。そこでのLSE、EDC、CSPの役割は以下のとおりである:
- LSE(またはその代理人)は、個々の小売顧客では満たせない可能性のある卸電力としての必要条件を満たす
- EDCは、小売顧客に電力を供給するために使用される流通基盤提供する
- CSPは、全てのDR関連の活動を司るPJMのメンバで、他のPJMのメンバ(LSE、EDC、またはDRアグリゲータ)のエンドユーザに対してCSPとしての機能を提供する。
【DRの現状】
DRは、小売電力市場が規制されていた頃、EDC/LSEが垂直統合された、いわゆる電力会社によって卸売市場に提供されていた。
その後、小売電力市場が自由化され小売競争が始まると、PJMは、小売事業者であるLSEに、自らの顧客だけでなく他のLSEの顧客からDR資源を調達することを許可した。 LSEばかりか、全く異なる組織がエンドユーザのDR資源を集めて卸売市場に提供することができるようになった。このルール変更により、PJMは、CSP(Curtailment Service Provider:負荷削減サービス提供者)という、新たな役割を担うビジネスを創出したのである。
CSPは、DR資源という、エンドユーザの負荷削減量を集約することを専門とする組織であり、(電力小売りを行なう)LSEや(電力供給を行なう)EDCとは異なるインセンティブを持っている。インセンティブの観点で比較すると
- EDC:小売り自由化後も規制下の託送料金表に基づく収益構造をとっているので、DR普及による電力供給量の低減は、収益を阻むものであって、DR促進のインセンティブはほとんどない。
- CSP:DRに特化しており、可能な限り多くのDR資源を市場に持ち込むインセンティブが働くので、この10年PJM市場においてDRの大幅な増加に貢献してきた。 PJMでは、このDRの現状を認識した上で、今後どのようなDRサービスモデルが望ましいか、LSE、EDC、CSPいずれかにDR実施主体を集約した場合の評価を行なった。
- LSE:エンドユーザに電気を提供することで収益を得るLSEにとって、DRは、卸売市場から電力を購入し、小売市場に販売するための全体的な戦略のほんの一部に過ぎない。
1.EDCモデル
DR実施がEDCのみに許される場合。
【メリット】
- 小売自由化による顧客切替えの影響を受けない
- (特に一般家庭など小規模小売顧客に関して)DRの教育、DRプログラムへの参加勧誘が容易
【課題】
- 元来EDCにはDR普及促進のインセンティブが働かず、競争とイノベーションが働かないので、すべてのEDCが競争力を持ってDRを提供できるよう、適切なインセンティブの導入等が必要
- 州ごとに規制ルールが異なっている可能性があるので、特に州をまたがって電力を利用している顧客への対応が複雑にならないよう、各州の小売規制当局間の調整とサポートが必要
- エンドユーザのDR資源を集約して卸売市場に提供する実作業をCSPがビジネス・アウトソーシングの形で請け負うものとすると、追加の管理コストがかかる
2.LSEモデル
このモデルは、LSEだけが特定の顧客のDR資源を卸売市場に提供することができることを想定したもので、小売市場側の価格に応じた需要(Price-responsive demand:PRD)と卸売市場側の負荷応答(Load Response)を想定したアプローチである。LSEモデルの利点と課題は次のとおりである。
【メリット】
- すべての負荷削減にかかわる活動を、エンドユーザと連携して顧客のコスト削減と卸売市場からのレベニュー・シェアを図る1つの組織に統合する
- LSEは、既存の卸売市場ツールを活用して、負荷管理に関する義務(エネルギー市場にDR資源というフレキシブルな資源の入札を行なうとともに、容量市場で確保しなければならない設備容量を最小化し、なおかつ、アンシラリー・サービス市場にもDR資源を供給)を遂行することができます。
【課題】
- LSEは、これまでCSPモデルほど積極的にDRを使用してこなかった
- DRビジネスに特化したCSPモデルと比べて競争を制限する可能性がある
- LSEは、通常小売顧客と長期の電力供給契約を結んでいないので、容量市場にDR資源を投入するにあたって(今後3年間というような)長期のコミットメントを行う能力を持てない
3.エンドユーザ・モデル
このモデルは、大口需要家のようなエンドユーザが、CSP、EDCやLSEのような組織の介在なしに自らのDR資源を直接卸売市場に投入することを想定したものである。このモデルのメリットと課題は次のとおりである。
【メリット】
- LSE、EDC、またはCSPがDRサービスを提供するためのマージンに関連する費用が不要である
【課題】
- エンドユーザは、卸売市場に参加するにあたっての専門知識獲得のための教育と、DR実施のための管理コストが必要
- 本来小売市場で電力調達するエンドユーザが卸売市場へ直接参加するにあたって順守すべき義務に関する法的規制の問題
- エンドユーザ自体が卸売市場に参入することへの関心の低さ
4.CSPモデル
これはPJMの現在のDRビジネスモデルである。本来のCSPの他に、PJMメンバ(EDC、LSE、更にPJMメンバとなっている大口需要家)はすべてCSPとして行動し、卸売市場にDR資源を提供することができる。 CSPモデルのメリットと課題は次のとおりである。
【メリット】
- イノベーションを通じてこれまでコンペティティブなDR機能を特定し、有効にしてきた
- 小売規制当局の直接関与の有無にかかわらず、フレキシブルで、すべての小売市場の構造に適している
【課題】
- CSPによる負荷削減軽減がLSEの卸売市場での活動に悪影響を及ぼさないことを保証するか、影響に関する補償を行わなければならない(例えば、LSEがその顧客の需要予測をベースとして必要な電力を調達した後に、CSPがLSEの顧客の負荷を削減する場合)
PJMは、今後のDR戦略を策定するにあたって、競争力のあるCSPベースのモデルを活用すべきだと考えている。このモデルは、様々な小売市場でのDR機能を活用してグリッド管理を支援する能力を実証した実績を持っている。その結果として、あらゆる顧客タイプにわたってDR機能の大幅な成長を実現してきた。
さらに、CSPモデルは非常に柔軟性が高く、小売規制当局の政策目的に基づいて、EDCモデルやLSEモデルなどに、ビジネス・アウトソーシングの形で入り込み、種々の小売規制構造に対応することができる。
すでに卸売市場でのDRの運用は成熟して来たため、PJMは、発電事業者に卸売市場参加に当たって訓練を義務付けているように、CSPの卸売市場参画に当たって義務的な訓練と認定要件を検討する時期だと考えている。そうすることでCSPに最低限の専門知識を持たせ、パフォーマンスと信頼性を向上させることが期待できる。
本日は以上です。
次回は、「Demand Response Strategy」のMarkets and Operations以降をご紹介しようと思います。
終わり
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