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前回は、PJMのRegDシグナルの何が問題なのか、Energy Storage Newsの「PJM’s frequency regulation rule changes causing ‘significant and detrimental harm’」の記事で確認しました。

今回、いよいよPJMが2017年1月に公開したドキュメント「Implementation and Retionale for PJM’s Conditional Neutrality Regulation Signals」に入ります。

こちらは、前回のような周波数調整力を提供する側の理屈ではなく、系統運用者の立場から、需給バランシングを保つため、なぜRegDルール(とRegAルールも)仕様変更が必要だったかを説明しているものです。

例によって、全訳ではないことと、個人的な思い込みの入った超訳になってしまっている可能性があることにご留意ください)

PJMが周波数調整信号の仕様を変更したその訳とは?

~2017年1月PJMが公開した「Implementation and Rationale for PJM’s Conditional Neutrality Regulation Signals」より~

2017年1月9日、PJMは周波数調整信号の仕様を変更した。

2011年発行されたFERCオーダー755に従って、エネルギー貯蔵企業に周波数調整市場の門戸を開放して以来、PJMの周波数調整市場参入を目的としたエネルギー貯蔵プロジェクトが急増した。その結果、2015年ごろになると、朝晩の需要が連続的に大きく変化する時間帯に、系統運用上不都合な状況が起きるようになった。すなわち、周波数調整信号を観察したところ、RegD信号が必ずしも地域制御誤差(Area Control Error:ACE)を解消する方向に向かわず、系統運用上信頼性への影響が懸念されたのである。

そこで、まずPJMは、RegD電源とRegA電源の比率である「利益係数(benefits factor)」を変更し、RegDの比率を低くするとともに、RegD電源の最大調達量を全体の26.2%以下に制限することにした。

更に、2017年1月9日から、ACE制御と、エネルギー貯蔵装置の「エネルギー中立性」へのニーズのバランスを考え、RegAとRegDの両方の信号が助け合って地域制御誤差を最小化するようにした。

出典:2016.12.6、PJM State & Member Training Dept.「Regulation」p.11

具体的には、RegA信号を生成する周波数制御装置(上図中、上段のRegulation Controller)は、ローパスフィルタを通して得られた最適補正値以上の調整能力がある場合、RegD信号の「エネルギー中立性」を確保するため、RegA信号生成において、新たに「(RegD信号のための)中立性バイアス」を導入した。

この「中立性バイアス」とは、RegD電源の累積充電(あるいは放電)状態を減少させる方向に動くことができるように、RegA信号を意図的に過補正するものである。

こうすることによって、RegA、RegDのそれぞれの信号を受けたRegA電源、RegD電源の協調操作の結果、ACEを最小化することができるとともに、エネルギー貯蔵装置の容量制約を事実上無視することができる。

PJMの周波数調整アンシラリーサービス

米国において、電力の需要と供給を管理する役割を担う組織を、需給バランス調整組織(Balancing Authority:BA)と呼ぶ。PJMは、このBAの役割を担う系統運用機関で、発電機群を経済的負荷配分制御する(economically dispatching generation)ことで、電力系統内で時々刻々変化する負荷に対応している。 需要と供給の変化は正確には予測できず、その過不足分が地域制御誤差(ACE)となる。PJMは、ACEを管理し、系統の信頼性を確保するため、周波数調整信号を自動発電制御(AGC)可能な発電機等に送信し、発電機等の出力を遠隔操作で上げ下げして、負荷と発電の瞬間的な変化を補正している。

2002年以来、PJMは周波数調整市場を運営しており、メリット・オーダーに基づいて必要な周波数調整力を競争的に割り当ててきたが、2012年、FERC Order 755を満たすべく周波数調整市場を再設計し、パフォーマンスベース規制(Performance Based Regulation:PBR)と呼ばれる仕組みを導入した。これは、周波数調整信号に対する応答の速さに基づいて周波数調整力を提供する資源への対価を差別するもので、従来の火力発電のように応答速度の遅い資源に対する周波数調整信号:RegAと、蓄電池のように応答速度の速い資源に対する周波数調整信号:RegDを併用するよう設計されている。

なお、PJMは、資源側から報告される合計周波数調整可能量(Total Regulation Capability:TREG)の値によって、利用可能な周波数調整余力を管理している。このTREGは、資源または資源のグループが基点を基準にして上下に移動できる総移動量(kW)を表している。

RegA、RegD両方の周波数調整信号とも、資源の設定ベースポイントを中心として、正のTREG(全上昇信号)値から負のTREG(全下降信号)値まで変化する。

ところで、今日、PJMの周波数調整市場には3種類の資源グループが参加している。(火力発電等の)従来型の周波数調整資源、(蓄電池やフライホイール等の)エネルギー貯蔵資源、そして、デマンドレスポンス(DR)である。

  • 従来型の資源に対するRegA信号は、ベースポイントを中心に、そのエネルギー出力を増減させるように指示する。
  • エネルギー貯蔵資源の場合、正のRegD信号は系統への逆潮流を表し、負のRegD信号は系統からエネルギーを吸い込む要求を表す。
  • DRは、周波数調整信号に系統への負荷を調整することで対応させるものである。

発電のために燃料を使う従来型の資源とは異なり、エネルギー貯蔵資源は、系統にエネルギーを継続的に注入することになった場合、最終的に蓄積していたエネルギーを使い果たしてしまう。そこで、エネルギー貯蔵資源のこのような制約を回避するため、総合的に余裕があるなら(=RegA資源に余裕があるなら)、一定時間のエネルギーの総和が中立を保つようにRegD信号を発生させる。「経緯」で言及した「中立性バイアス」はそのための仕組みである。

以前の周波数制御方式の仕様:MPI制御

以前の周波数制御方式の仕様(Modified Proportional-Integral controller:MPI制御)は、今回、本書で提示する「条件付き中立性確保制御:Conditional Neutrality Controller:CN制御」方式と比べると、以下の点で劣っていた:

  • まず、RegAとRegD信号は互いに独立して作成されていたため、協調的にACEを制御することができなかった。
  • 制御装置のRegA加速機能は、電源が体協可能な能力以上の指示をしてしまう可能性があった。
  • 今回の仕様変更上の最も顕著な違いは、RegD信号の「エネルギー中立性」機能が、時としてACE制御に逆行する信号を生成したことである。


2012年10月のPBR導入から2017年1月9日まで、PJMのAGC信号は修正版PI制御(Modified Proportional-Integral controller:MPI制御)ロジックに基づいて生成されていた。(下図参照)

修正版と呼んでいるのは、ACE補正信号(ACEを打ち消すための信号で、ACEの値の正負を逆にしたもの:ACS)を積分器に送る前に不感帯を考慮した前処理を行なっているからである。

また、PI制御は、入力信号に対する急激な変動と定常応答の両方を管理するのに役立つが、このMPI制御では、その出力をRegA信号の生成のみに用いていた。RegD信号は、ACSと、MPI制御の途中の信号およびそのローパスフィルタの残差から生成され、ゼロ中心の「エネルギー中立性」の保たれた信号となっていたのである。

細かなロジック説明は省略しますが、気になる方は原文の「Previous Controller Design」と「Conditional Neutrality Controller Design」の部分をお読みください。

その結果、MPI制御の下では、大きなACE偏差が生じると、エネルギー貯蔵装置の充電状態をリバランスするために、RegD信号がACEを解消する方向から逸脱する現象が起きてしまったのである。

今回の周波数制御方式の仕様:CN制御

2 017年1月9日から、PJMは、新しい「条件付き中立性確保制御:Conditional Neutrality Controller:CN制御」方式で周波数調整資源の管理を開始している。(下図参照)

この新しい周波数調整のための制御ロジックの設計思想は以下のとおりである。

  • CN制御は、RegD資源の充電状態を制御する内部フィードバックループを持つハイブリッド比例積分微分制御(hybrid proportional-integral-derivative controller)を行なう。
  • 従来通り、RegAとRegDの2つの信号によりACE制御を行なう。
  • 従来と異なるのは、CN制御では一定時間内にRegD信号の累積値を強制的にゼロに収束することはしなくなったことである。
  • 代わりに、PJM管内でのACEをゼロにするようRegA、RegDを最適に制御する。

すなわち、RegD資源の充放電状況を監視しRegA資源制御量に余裕があれば、RegD資源の累積充放電状態を軽減するようRegA制御量を調整するが、基本的には、RegD資源よりもPJM管内のACE偏差軽減を優先するものとなっている。

以上、PJMの資料「Implementation and Retionale for PJM’s Conditional Neutrality Regulation Signals」から、2017年1月9日以降導入された新しい周波数調整制御ロジックとそれ以前の制御ロジックの解説部分の概要をご紹介しました。

以前のロジックではエネルギー貯蔵装置の充放電量の制約を最優先していたが、新しいCN制御(Conditional Neutrality Controller)ロジックでは、本来の周波数調整目的を最優先したということで、PJMからすると、以前の周波数調整ロジックにバグがあったから修正した。FERCにお伺いを立てるまでもない-ということではなかったかと思います。

通常、周波数調整信号は上げ下げ相半ばすると思うのですが、ダックカーブにみられるように、今後も太陽光発電がどんどん増え、それが自家消費に回ると、従来はピーク需要時間帯だった時間帯は系統電力の需要は減る。その代わり、朝晩の太陽光発電量が急に多くなる/少なくなる時間帯に、需要を満たすべく、長時間継続して大幅な系統電力の需要減/増がおきる。そこで、通常±100%の間で上下するはずのRegD信号は、本来、その間+100%/-100%の指示を継続しようとするが、以前のロジックではエネルギー貯蔵装置の容量制約を考慮して、RegA信号は+100%の指示を出しているにもかかわらず、突然RegD信号は-100%の指示に変わり、ACE偏差を助長するようになる。

CN制御では、「Conditional」という言葉が示すように、RegD資源がACE偏差を助長する動きに転じても、RegA資源側に余裕がある場合(ここがConditionalという所以ですね)しか、RegD信号分の本来の動きまで肩代わりしなくなった。そこで、RegD資源提供者は、朝夕の時間帯(ほかの時間帯でも)、周波数調整力を提供する自社のエネルギー貯蔵装置のSOCを監視し、途中で満充電状態/空状態となりRegD信号の指示に従えなくなる状況を回避する対策を施す必要が出てきた-ということですね。

ESAの主張だけを見ると、PJMが周波数調整資源提供者やFERCを無視して勝手にルール変更を行なったように見えましたが、PJMの資料を見ると、ESAの主張は、たまたま優遇されていた既得権益を侵され文句を言っているだけ(例えば、赤ん坊が生まれチヤホヤされなくなった長男・長女のやっかみと甘え)のように見えるのですが、皆さんはどのような感想を持たれたでしょうか?

おわり