Sabrina at her pier, seen from the Welsh Bridge
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前回は、PJMの容量市場が容量クレジット市場からRPM制度に切り替わった直後の 「最低入札価格ルール(MOPR)」がどのようなものだったかをご紹介しました。
容量市場は将来の供給力確保を目指すものなので、MOPRは、その担い手となる新設火力電源が容量市場から締め出されないようにするための仕組みの1つか?と勝手に解釈していたのですが、実は、必要以上に新設火力電源が容量市場に投入されて容量市場価格の値崩れを防ぐための仕組みとして導入されていたんですね。
かくして、2007年からPJMではRPM制度の下で3年後の供給力確保を目指すBRA(Base Residual Auction)と呼ばれるオークションが開催されるようになったわけですが、PJM市場を監視するMonitoring Analytics社の発行するPJM市場に関するレポートをさかのぼって確認したところ、2011年まではMOPRに関する動きはなかったようです。
#RPM制度で設けられたもう一方の市場支配力の緩和策である「Three Pivotal Supplier Test」(当該LDAの地域に属する3大電力供給者の入札結果が市場支配力行使に相当するかどうかのチェック)の規制に抵触した電源供給者に対して入札上限規制がかかったという記述は見つかりましたが、最低入札価格ルールに抵触したという記述は2007年~2011年の「State of the Market Report for PJM」に見つかりませんでした。
ところが、2006年のレポート以来5年ぶりに、2011年のレポートではMOPRという用語が4章(Capacity Marketに関する2011年度の報告)だけで14回出現しています。
で、2011年に何が起きたのか?ですが、その前に1つ補足・訂正があります。
本ブログ「その4」でMOPRの当時のルールの詳細を、「和解合意書 1 of 4」の「Tab 1 Explanatory Statement And Attachments」-「EXPLANATORY STATEMENT」-「II. DETAILED DESCRIPTION OF THE SETTLEMENT AGREEMENT」-「K. Minimum Offer Price Rule for New Entry in Constrained LDAs」p26-28に書かれていたものを自分なりに理解し、整理してご紹介したのですが、「和解合意書 2 of 4」の「Tab 2 Settlement Agreement And Attachments」-「J. Minimum Offer Price Rule for New Entry in Constrained LDAs」の方に、もっと詳しくMOPRの内容が説明されていましたので、以下に差し替えたいと思います。
#「1 of 4」中のMOPRに関する記述はかなり散文的だったので、M18マニュアルでのMOPRの記述を参考にしながら、原文をかなり「超訳」してご紹介したのですが、今回はOpenGLで翻訳したもの(文字色=青の部分です)に手を入れる(文字色=緑の部分です)形でご紹介します。
J.制約のあるLDAにおける新規参入のための最低売出価格のルール
PJM料金表(PJM OPEN ACCESS TRANSMISSION TARIFF)の添付資料Y(現在はATTACHMENT DDにRPMの料金に関する情報が記載されている)に新しいセクション5.14(h)として以下を追加する。
(1) 各BRA(3年先の供給力を確保するための最初のオークション)に先立ち、市場モニタリングユニットは、競争力のある、コストベースの実質的な平準化された(1 年目の)新規参入コストの推定値(=Net CONE)を作成しなければならない。
上記にかかわらず、以下の設備が新規参入した場合のNet CONEはゼロとする。
(i) 原子力、石炭、統合ガス化複合サイクルなどのベースロード資源で、3 年以上の開発期間を必要とするもの。
(ii) 水力発電に関連する施設。
(iii) 既存の発電容量資源のアップグレードまたは追加、または
(iv) 受渡年に予想される容量不足を解決するため、州規制機関もしくは州議会の決定に応じて開発された発電計画容量資源で、その旨PJMに通知があり、PJM からの証拠開示手続に従ったもの。
(2) 市場監視部門は、地域ごとに個別の VRR カーブ(Variable Resource Requirement Curve:需要曲線)が設定されている LDA において、当該資源が運用可能となる最初の受渡年のBRAに提出された計画発電容量資源に基づく売買を評価し、以下の基準を満たしているかどうかを判断するものとする。
i. 売り出しが容量市場決済価格に影響を与える。
ii. 入札価格が、当該LDAに適用される Net CONE の 80%未満、または、適用される Net CONE がない場合は、当該 LDA で有効な参照資源の Net CONE の 70%未満である。
iii.小売電気事業者(LSE)およびその関連会社は、当該LDAの信頼性要件が
(a) 10,000 メガワット未満の場合は LDA の信頼性要件の 10%、
(b) 10,000 メガワット以上の場合は LDA の信頼性要件の合計の 5%に等しい、
又はそれを超える「ネットショートポジション」を保有している。
なお、「ネットショートポジション」は、LSEに課せられた容量確保義務量から「供給ポートフォリオ」を差し引いたものとして計算されますが、その容量確保義務量には、受け渡年までの負荷の増加を考慮して調整された、BRAの時点またはその前後におけるLSEのLDAで供給される総負荷を意味するものとします。また、「供給ポートフォリオ」とは、BRAの時点で、LSE及びその関連会社が保有する発電容量資源(未契約容量ベース)に、BRA の時点で受渡年の契約中の発電容量を加えたものと、(BRAの時点では契約していたが、受渡年までに廃止された発電所の発電容量を)差し引いたものを意味します。
(3) BRAへのあるLSEからの入札が(2)の基準すべてに該当すると市場監視部門が判断した場合には、その旨を LSEに通知し、LSEは、5営業日以内、または市場監視部門が同意した期間内に、入札価格に関連するコスト及び運用パラメータに関する具体的な情報を提供する必要があります。
LSEが指定された期間内にそのような情報を提供しなかった場合、またはLSEから情報提供があった場合も、容量市場入札価格に関する当該LSEからの説明に妥当性がないと判断した場合、 (1)で決定された新規参入純費用をベースとした入札価格に代替する。すなわち、実際の入札価格に代えて、適用されるNet CONEの90%(または、適用されるNet CONE がない場合は、参照資源のNet CONE の 80%相当)で入札があったものとする。
提供された情報の妥当性を判断するに当たって、市場監視部門は、当該資源が PJMの管理市場からの収入に依存していた場合(すなわち、当該資源の全出力が PJM管理市場で販売されていた場合)得られる収入と合わせて、容量市場への入札価格が実質的な競争力のある、コストベースの値となっているかどうかを判断するものとする。また、市場監視部門は、利用可能な関連する信頼できる裏付けと客観的分析に基づいて適切と認めた場合には、代替入札価格を調整するものとする。
(4) 市場監視部門は、(2)の基準に合致する入札が含まれていた場合、BRAの結果について、PJMに感度分析を依頼する。
この分析は、実際の入札価格の代わりに、(3)で決定されたNet CONEの 90%に相当する代替入札価格を採用して容量市場決済価格を再計算するもので、適用されるNet CONE がない場合は、参照資源のNet CONE の 80%に相当する価格を使う。
計算しなおした容量市場決済価格ともとのBRA市場決済価格との価格差が、
i) LDA の信頼性要件の合計が 15,000 メガワットを超える場合にはメガワット日当たり 20 パーセントまたは 25 ドルのいずれか大きい方
ii) LDA の信頼性要件の合計が 5,000 を超え 15,000 メガワット未満の場合にはメガワット日当たり 25 パーセントまたは 25 ドルのいずれか大きい方
iii) LDA の信頼性要件の合計が 5,000 メガワット未満の場合は、30%またはメガワット日当たり 25 ドルのいずれか大きい方
よりも大きい場合、当該入札価格は、容量市場決済価格に影響を与えるものと判断し、もとのBRAの結果を破棄し、次の(5)に規定する手順でBRAの再計算を実施するとともに、最低入札価格ルールに抵触した電源と、それらの入札価格を差し替えた代替価格を明らかにする。
(5) PJM は、(4)の基準を満たす全ての入札(=感度分析の結果、容量市場決済価格に影響ありと判断されたもの)も含めてBRAの再計算を行うに当たって、以下の優先順位及び割当基準に従って、入札された電源を採用していく:
(i) まず、入札量全量が自己供給のもの
(ii)次に、必要な範囲内で(原文はprorating to the extent necessary)、全ての入札価格が$0/MWのもの
(iii) その後、残りのすべての入札に関して、(1)~(4)の手順に従って入札価格の差し替えが必要なものは差し替えた後、入札価格の低いもの
から順に調達対象を決定する。
(6) 上記にかかわらず、添付資料(PJM料金表添付資料Y)の5.10(a)(iv)(B)に定義されているとおり、入札価格が本規定(最低入札価格ルール)に抵触する場合でも、その新規電源に関して正の純需要(原文:positive net demand)が認められた場合は、最低入札価格ルールを適用しないものとする。
ただし、その場合も、最低入札価格ルールに抵触する入札を行った電源が所在する制約されたLDAでの新規参入総コスト(Gross CONE)が、隣接する LDA の中で最大のGross CONEの150%以上ある場合は、最低入札価格ルールを適用するものとする。
以上が、和解合意書「1 of 4」の「EXPLANATORY STATEMENT」ではなく、「2 of 4」の「Settlement Agreement And Attachments」に掲載されていたMOPRに関する記述になります。
FERC Online eLibraryの情報をさらに検索すると、2006年9月29日に公開された和解合意書でMOPRの詳細がすべて決まったわけではなく、その後も和解合意書の内容に関する賛否両論のコメントが寄せられていますが、2006年12月21日付けでFERCは、条件付きで和解合意書の内容を承認しています。
以下は、その際発行されたFERCのニュースリリース「COMMISSION CONDITIONALLY APPROVES PJM RELIABILITY PRICING SETTLEMENT INTENDED TO ENSURE ADEQUATE POWER SUPPLY」の抜粋です。
FERC、適正な供給力確保を目指すPJMの新たな容量市場制度RPMを条件付きで認可
連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、本日、14州にまたがるPJM管内の系統信頼性を確保し、公正かつ合理的な料金を提供することを目的とした広範な和解契約を条件付きで承認した。
FERCは2006年4月の命令で、必要な供給力を確保するために、PJMの容量市場制度の変更に同意し、和解協議の舞台を設定して新たな制度策定するための手続きを定めた。
今回の和解合意書で示された、地域別容量市場価格決定のメカニズムが適切な価格シグナルを提供し、特定の地域での電源建設インセンティブを提供するので、PJM管内の系統信頼性要件を満たすのに十分な資源を適正かつ合理的な料金で確保できるものと確信している。そこで、FERCは、PJMが以下の条項の変更を提出することを条件として今回の和解合意書の内容を認可する事とした。
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- 和解合意書に署名した当事者と署名しなかった当事者を差別する条項の変更を申請する
- PJM市場監視部門に不適切な裁量を与える条項を変更する
- より多くの資源が迅速なコスト回収処理を受けることができるように、料金表を改定する
そして、実際の和解合意書の認可は、ニュースリリースの翌日、2006年12月22日付けのFREC オーダー「ORDER DENYING REHEARING AND APPROVING SETTLEMENT SUBJECT TO CONDITIONS」で行われています。
#余談ですが、このオーダータイトルにあるREEHARINGというのは、PJMが容量クレジット市場からRPM市場に移行する決定に関して再審請求が出ていたので、FERCは再審請求は拒否して、条件付きで和解合意書に記載された方向でのRPM制度への移行を認可したわけですね。
2006年9月29日に和解合意書をまとめ上げるまでの協議は相当紛糾したようで、和解合意書に関する再審請求だけでなく、2006年4月20日FERCがRPM制度への移行検討に「GO」を出したInitial Orderにさかのぼっての再審請求もあったようです。
さて、今回は、MOPRの内容がその後どのような変遷を辿ったかご紹介する予定でしたが、MOPRの当初の内容をきっちりご紹介した方が良いと思い、横道にそれてしましました。
それと、今回紹介したMOPRの記述の項番(6)の原文が極めて難解で、高々10行足らずの英文を解釈するのに2日かかってしまいました。
以下で、原文と、OpenGLの翻訳結果をご覧いただきますが、普段は結構質の高い翻訳結果を出してくれるOpenGLも非常に翻訳にてこずっていることがお分かりいただけると思います。
(6) Notwithstanding the foregoing, this provision shall terminate when there exists a positive net demand for new resources, as defined in Section 5.10(a)(iv)(B) of this Attachment, calculated over a period of consecutive Delivery Years beginning with the first Delivery Year for which this Attachment is effective and concluding with the last Delivery Year preceding such calculation, in an area comprised of the Unconstrained LDA Group in existence during such first Delivery Year.
Notwithstanding the foregoing, the Market Monitoring Unit shall reinstate the provisions of this section, solely under conditions in which a constrained LDA has a gross Cost of New Entry equal to or greater than 150 percent of the greatest prevailing gross Cost of New Entry in any adjacent LDA.
(6) 上記にかかわらず、本規定は、本付属書の第 5.10 条(a)(iv)(B)項に定義されるように、本付属書が発効する最初の受渡年から始まり、その計算に先立つ最後の受渡年までの連続した受渡年において、当該最初の受渡年に存在していた非制約LDAグループで構成される地域において、新規資源に対する正の純需要が存在する場合に終了するものとする。
上記にかかわらず、市場モニタリングユニットは、制約のあるLDAの新規参入総コストが、隣接するLDAにおける最大の一般的な新規参入総コストの150%以上に相当する場合に限り、本項の規定を復活させるものとする。
次回こそ、MOPRのその後の変遷についてご紹介したいと思います。
おわり
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