Rous Lench Court
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ずいぶん時間があきましたが、PJMに関する新しい情報を入手しましたので、お知らせします。
PJMの1日前予備力市場(Day-Ahead Scheduling Reserve)の調達結果は、PJMのホームページ「Day-Ahead Ancillary Service Market Results Data Miner2」で確認できていたのですが、10月分のDay-Ahead Scheduling Reserveのデータを調べようとしたところ、「No Records found.」となってしまいました。
慌てて調べたところ、PJM Inside Linesの 「PJM Implements Reserve Price Formation Changes」に「PJMは、FERCの命令により、新しい予備力価格形成規則を10月1日から実施した。」という記事を見つけました。
そこで、FERCのeLibraryを検索したところ、今回のPJM予備力市場制度変更の最初の申請が、2019年3月29日に提出されていたことが分かりましたので、今回は、PJMが予備力市場制度変更に至った背景を探ります。
2019年3月29日、PJMはFERCに「ENHANCED PRICE FORMATION IN RESERVE MARKETS OF PJM INTERCONNECTION, L.L.C.」(Docket No. EL-19-58-000)を提出していますが、その内容は、以下の通りです。
PJMの予備力市場は、過去20年以上の制度設計の結果、現在の形で運用されているが、そのまま放置すると重大な影響を及ぼしかねない欠陥が予備力の要件や、予備力市場の商品構成で出てきたため、必要な是正措置を申請するものである。
是正措置は、具体的には、PJMの予備力市場のうち3つの重要な部分に焦点を当てている:
- 瞬動予備力(Synchronized Reserve)の調達がTier1(予備力が必要となる時点で稼働中、かつ予備力提供余力のある電源)とTier2(瞬動予備力市場から調達する電源で)に分かれており、PJMからの指令に対して実際に予備力を提供する場合に適用されるルールが異なっている
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- Tier2の電源は、PJMからの予備力調達指示に従い落札時に決定した分の電力供出義務があり、守れなければペナルティが課せられる。それに対して、Tier1の電源は、PJMからの予備力調達指示に従わなくてもペナルティは課せられない。また、供出した電力に応じてTier1の電源に対してはリアルタイム市場での価格で精算されるが、Tier2は予備力市場決済価格に応じて支払われる
- 運用予備力需要曲線(Operating Reserve Demand Curve:ORDC)のペナルティ係数と曲線の形状が不適切
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- ステップ1と書かれた赤い線部分で要求される予備力のメガワットは、単一で最大のオンライン事故時のリアルタイムメガワット出力によって決定さる。この量の基準は最低予備量(MRR)で、このステップ1のペナルティ係数は850ドル/MWhである。運用予備力需要曲線の青い線部分であるステップ2Aと2Bは、2017年と2015年に追加されたもので、ステップ2Aの目的は、ステップ1だけでは発生していた予備量の小さな変化に対する価格の大きな変動によるシステム変動を避けるために、カーブに小さなステップを追加することであった。ステップ2Bは、PJM内の市場実施委員会の提案がPJM会員に承認された結果追加されたものである。このオプションステップの目的は、保守的な運用中にPJMのオペレーターが追加予備を予定する行動をとったときに、予備要求量を延長する機能を作ることであった。
- このORDCは、主に2つの理由で不当かつ不合理である。
- 第一に、現行のORDCのペナルティ係数レベルは不適切であり、北米電気信頼性委員会(NERC)の信頼性基準への準拠を維持するために必要な、PJMのMRRを満たすためにPJM運用者が取るすべての行動を捕捉していない。そのため、ペナルティ係数以上のコストの行動は市場外で取らざるを得ず、価格に反映されないことになる。
- 第二に、PJMの現在のORDCは、MRRを超える予備力を投入する価値を認めているが、その追加ステップ(PJMは190MWhまでの追加予備費として300ドル/MWhまで負担できる)は限られており、追加ステップを超える予備力がリアルタイムでMRRを割り込むリスクを減らすためにもたらす価値を推定しようとはしていない。
- 1日前市場とリアルタイム市場の予備力市場商品がアンバランスなため、1日前市場での予備力調達が適切に行われず、予備力調達全体から見て非効率
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- PJM以外のすべてのISO/RTOは、リアルタイムで必要とされる予備力を営業日前に調達する方法を持っている。しかし、これまでPJMでは予備力として1日前市場ではDay-Ahead Scheduling Reserves、リアルタイムアンシラリーサービス市場ではSynchronized ReservesおよびPrimary Reservesの調達を行っていたので、図中の破線で囲われた予備力調達が行われていなかった。すなわち、リアルタイムでの10分以内に応答する予備力の必要性が明らかであるにもかかわらず、デイ・アヘッドベースで10分以内に応答する予備力を先行調達していなかった。
- 逆に、PJMでは、リアルタイムで30分以内に応答する予備力を持たなかったため、市場関係者は、Day-Ahead Scheduling Reserveの予備力としての価値を認識できない。
このような予備力市場ルール設計上の欠陥を正すために、PJMは、申請書で以下の提案を行なっています。
- 一貫した信頼性のあるパフォーマンスを実現するため、Tier1とTier2の瞬動予備力を1つの予備力製品に統合する
- 新たに、公正かつ合理的な運用予備力需要曲線決定方法を提案する
- 1日前市場とリアルタイム市場で同じ予備力を調達する
具体的には…と、その内容までご紹介したいところですが、FERCのeLibraryを見ると、2019年3月29日にPJMがこの予備力市場制度変更の申請書を提出したことを4月1日付けでFERCがアナウンスし、5月15日までコメントと、この提案に関する審議への参加希望者を募ったところ、申請内容に関する審議への参加要請や、PJMのルール変更申請への賛否の意見表明が100件以上FERCに届いていました。
で、多分、PJMの提案に関して、FERCで審議が行われた結果、この10月1日やっと新制度での運用開始にこぎつけたということかと思われるのですが、その議事録をまだ見つけられていません。また、最初の制度変更の申請をFERCに提出してすでに3年半も経過しており、ここまででいろいろ紆余曲折があったのではないかとも考えられます。
じっくり調べてみたいので、今回はここまでとします。
終わり
Pingback: PJMの予備力市場の制度変更2022―その3 – インターテックリサーチ株式会社