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The Old School House, Rous Lench
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2022年10月1日からはじまったPJM予備力市場制度変更に関する調査の続きです。

 

前回、その3では、いきなりPJMマニュアルNo.11, 28, 29の変更点を翻訳して列挙するのではなく、まず9月21日のアナウンス「Reserve Price Formation – EMS Communication Element Changes」、10月3日付けのPJM Inside Lines 「PJM Implements Reserve Price Formation Changes」で、制度変更の概要を振り返るとともに、PJMのホームページがどう変更されたかをしらべ、最後に10月8日付けで公開されていた「Frequently Asked Questions about Reserve Price Formation」をご紹介しましたので、PJMの予備力市場制度変更のアウトラインについて、「だいたいこんな制度変更のようだ」というイメージは持っていただけたのではないかと思います。

そこで、今回は、マニュアル変更箇所も参照しながら、制度変更の詳細を見ていきたいと思います。

 

まず、比較のために、これまでのPJMの予備力市場で取引される「商品(product)」について確認します。

これまでPJMの予備力市場で取引されていた商品は、1日前市場のDay-Ahead Scheduling Reserveと、アンシラリーサービス市場で取引されるPrimary ReserveおよびSynchronized Reserveの3種類でした。

※Primary Reserve(=主要な予備力?)の語感が持つニュアンスとしては、Synchronized Reserveを上回る大切な予備力という響きがあります。欧州でのPrimary Control Reserveは一次調整力(=周波数調整力)なので、よけいに混乱しますね。

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これら3つの商品の要件は、上図にあるように、Day-Ahead Scheduling Reserveの応動時間は30分以内、Synchronized ReserveとPrimary Reserveの応動時間は10分以内で、Primary Reserveは下図のように、Contingency Reserveとも呼ばれていたようです。

出典:PJM、Reserve Market Price Formation Enhancements

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出典:PJM、Operating Reserve Demand Curve Education

また、この図からわかるように、予備力を実際に使う時点で、Primary Reserve市場で調達された予備力資源は、その時点で系統に同期できているかどうかによってSynchronized Reserveとして使われる場合もあるし、Non-synchronized Reserveとして使われることもある。そして、Day-Ahead Scheduling Reserveで調達された予備力資源や、Non-synchronized Reserveとしても使われなかったPrimary Reserveの予備力資源は、上図中のSecondary Reserveとして主に使われることになるようだ。どうして最初から市場商品として、Synchronized Reserve、Non-synchronized Reserve、Secondary Reserveにしないのだろうと、常々思っていました。

更に複雑なのは、PJMが実際にSynchronized Reserveを使う場合、その時点でエネルギー市場にコミットしていて調整余力のある電源(=Tier1資源)を優先的に使い、それでも足りない場合にTier2として、Synchronized Reserve市場で調達された予備力資源や、Primary Reserve市場で調達された予備力資源のうち、Synchronized Reserveの要件を満たすものから選ばれることです。

アンシラリー市場の商品構成と、実際に使う予備力の関係がねじれていて、何か違和感を感じていました。

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出典:OCCTO(MRI)、「欧米諸国の需給調整市場に関する調査」最終報告書

また、同じSynchronized Reserveの予備力を提供する電源がTier1かTier2かによって、明らかに不平等になっていました。

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出典:PJM、Reserve Market Price Formation Enhancements

上図にあるように、Tier1もTier2も応動時間が10分以内という要件は同じですが、Tier1電源は、Synchronized Reserveのイベント発生時に、それに応じなくてもペナルティは課せられないのに対して、Tier2電源は、落札時に決定した容量を提供できないとペナルティを課せられます。また提供した予備力に対する対価も、Tier2はSynchronized Reserveアンシラリーサービス市場での約定価格に基づいて支払われますが、Tier1はそうではありませんでした。

これまでのPJM予備力市場での精算ロジックの詳細に関しては、以下をご覧ください。

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出典:OCCTO(MRI)、「欧米諸国の需給調整市場に関する調査」最終報告書

これに対して、今回の予備力市場制度の変更は、予備力市場の構成を非常に素直でわかりやすいものに変更したといえると思います。

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出典:PJM、30 Minute Reserves

すなわち、上図のように、1日前アンシラリーサービス市場とリアルタイムアンシラリーサービス市場の取引商品を同期させたので、1日前市場でコミットした予備力容量を満たせなかった場合、対応するリアルタイム市場で清算することも可能となったようです。

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出典:PJM、マニュアル11 4.1 Overview of the PJM Reserve Markets

 

上図によると、予備力市場商品(Product)としてはPrimary Reserveではなく、Synchronized Reserve、Non-Synchronized ReserveおよびSecondary Reserveの3種、予備力サービスとしてSynchronized Reserve、Primary Service、30-minute Reserveの3種類となっています。

 

マニュアル上、それぞれの予備力サービスの定義は以下の通りです:

  • Synchronized Reserve Service(SR): 10分以内に応答可能なオンラインリソースによる予備力提供
  • Primary Reserve Service(PR): 10分以内に応答可能なオンラインまたはオフラインのリソースによる予備力提供
  • 30-Minute Reserve Service(30MIN): 30分以内に応答可能なオンラインまたはオフラインのリソースによる予備力提供

また、予備力市場商品の定義は以下の通りです:

  • Synchronized Reserve Product: 10分以内に応答可能なオンラインリソース。この商品は、Synchronized Reserve、Primary Reserve、30-Minute Reserveの各サービスを満たすことができる
  • Non-Synchronized Reserve Product: 10分以内に応答可能なオフラインのリソース。この商品は、Primary Reserveと30-Minute Reserveのサービスを満たすことができる
  • Secondary Reserve Product: 10分から30分の間に応答することができるオンラインまたはオフラインのリソース。この商品は、30-Minute Reserveサービスのみを満足させることができる

※現在、PJMのホームページのアンシラリーサービス市場の取引情報を公開しているData Miner2の「Real-Time Ancillary Service Market Results」では、リアルタイムアンシラリーサービス市場の商品(product)の取引結果ではなくサービス(SR/PR/30MIN)ごとの市場価格が公開されています。

また、運用予備力曲線(Operating Reserve Demand Curve:ORDC)に関しても変更を加えかつ、1日前アンシラリーサービス市場とリアルタイムアンシラリーサービス市場で同じものを使うようにしています。

出典:PJM、30 Minute Reserves

※MRR:Minimum Reserve Requirement

Synchronized Reserve、Primary ReserveおよびSecondary Reserveの調達量は上図の通りですが、ORDCに関しては、以前の直線的なステップ(下図の赤い破線)から、後半は漸減する曲線に変更されています。

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出典:PJM、Reserve Market Price Formation Enhancements

※グラフ中の$2000/MWhの数値は例示のためのもので、実際には直近3年間のデータに基づいて1日を6つの時間帯に分け、シーズンごと、サービスごと、ゾーンごとにORDCの線引きをするようです。FAQのQ12/A12にあったように、サブゾーンとしては、当面、従来通り中部大西洋/ドミニオン(MAD)サブゾーンのみなので、PJM全域(PJM_RTO)と合わせて2種類のゾーン用に作るので、全部で6(時間帯)×4(シーズン)×3(サービス)×2(ゾーン)=144種類のORDCのグラフを作ることになるようです。

 

今回は以上です。

 

終わり