The Bay Horse, Green Hammerton
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2022年10月1日からはじまったPJM予備力市場制度変更に関する調査の続きです。
前回、その7では、昨年10月1日に始まった制度変更から離れて、発電オファーの上限がいつ$1000/MWhから$2000/MWhに引き上げられたのか調べた内容をお話しました。
昨年のクリスマスイブにもPJM管内を大寒波が来襲し、電力市場価格が軒並み高騰したようですが、発電オファー価格の引き上げは、2014年1月の大寒波に端を発していたということでした。
また、発電オファー上限価格を$2000/MWhにしても発電事業者にとって逆ザヤが発生しないよう、予備力不足時の価格ルール(Shortage Pricing)を定めたということで、その説明の中でORDCとPenalty factorの話が出てきて、今回のブログで紹介した昨年10月1日からの制度変更の話とつながりました。
その後、Shortage Pricingに関して、再度調べたところ、このルールは、入札上限改定時に導入されたわけではなく、FERCオーダー825「Settlement Intervals and Shortage Pricing in Markets Operated by Regional Transmission Organizations and Independent System Operators」でFERCがISO/RTOに実装を要請していました。
そこで終わろうとしたのですが、PJMのサイトで見つけた2015年9月9日の資料「Shortage Pricing Penalty Factors and the Offer Cap」に載っていたエネルギー市場価格と予備力市場価格計算事例を見て、実は予備力市場価格決定メカニズムが理解できていなかったことにハタと気づきました。
発電機A(300MW、うち予備力分80MW)、発電機B(400MW、うち予備力分100MW)、発電機C(400MW、うち予備力分80MW)で、必要な予備力量は200MWと一定ですが、必要なエネルギー供給量を200→400→700→829→840MWと変化させた場合、予備力価格が$0/MWh→ $400/MWh→ 720/MWh→ $849/MWh→ $850/MWhと、摩訶不思議な変化をしています(と思ったのは自分だけでしょうか?)
今回は、そのなぞ解きを行いますので、すでに予備力市場の価格決定メカニズムをご存じの方は、「そんなこと今頃やっと気づいたのか?」とご笑覧いただき、考え違いがあればご指摘いただければ幸いです。
まず、前回の資料にあった、市場価格計算の前提となる3つの発電機それぞれの条件と、必要なエネルギー供給量が5種類あった場合の、エネルギー市場価格(Energy price)および予備力市場価格(Reserve price)の計算がどうなるかの結果(解答)を再掲します。
■条件
※ここで、「$700+$1/MW Output」というのは、100MW提供する場合は$700+$1×100=$800/MWhを意味します
■ CASE1:必要な供給量が200MWの場合
■ CASE2:必要な供給量が400MWの場合
■ CASE3:必要な供給量が700MWの場合
■CASE4:必要な供給量が829MWの場合
■ CASE5:必要な供給量が840MWの場合
では、CASE1のエネルギー価格に関して考えてみましょう。
エネルギー市場価格は、オファー価格の安いものから順に必要な供給量に達するまで調達した際の一番高い調達単価になるので、CASE1(200MW)の場合は発電機A(300MW)から200MW供給すればよいので、発電機Aのオファー価格$100/MWhがEnergy priceになります。資料にある解答:Energy price=$100/MWhとあっていますね。
「Reserve price=$0/MWh -Gen A sets LMP」の部分はとりあえずおいて、CASE2のエネルギー価格を考えてみましょう。
CASE2(400MW)の場合は発電機A(300MW)だけでは足りず、発電機Bからの100MWを加えるので、Energy Priceは$500/MWhで、これも資料にある解答:Energy price= $500/MWhとあっています。
しかし!
Assigned Energy欄を見ると、発電機Aは300MWではなく280MW、発電機Bは100MWではなく、120MWとなっています。
なぜでしょうか?
原因は、予備力市場のことを同時に考慮していなかったからです。
「PJMではエネルギー市場と予備力市場の調達コストを同時最適化している」ということは、聞き及んでいたし、頭では理解していたつもりですが、それがどういうことか、これまで深く考えていませんでした。また、予備力市場価格は、エネルギー市場等と同じように、予備力のオファー価格の安い順に並べて出来上がった予備力供給曲線と、必要な予備力量の需要曲線(というか垂直の直線)の交点で決まるものだろうと考えていたのですが、単純にそう考えると計算が合いません。
ポイントの1つは、予備力には、発電機の設備容量からエネルギー供給する分を差し引いた分しか供給できないということです。また、この計算例では、予備力として提供できる量にも制約があり、発電機Bからは最大100MWしか予備力を提供できないので、予備力として必要な後の100MWを発電機A:20MW、発電機C:80MWに割り振っています。
その結果、発電機Aのエネルギー供給量は300→280MWに、発電機Bのエネルギー供給量は100→120MWになりました。
で、この場合の予備力価格は、PJMマニュアルM28(Revision: 89 – 2022/11/1)「6.2.3 Synchronized Reserve Lost Opportunity Cost Credit」によると、以下のロジックで決定されるようです。
本来、エネルギー市場で経済調達を行う場合、発電機Aから300MW調達するところ、予備力として20MWを供給しなかったことによる収益の機会損失額は$500/MWh(LMP)×20MW - $100/MWh(オファー価格) × 20MW = $8000/hなので、MW当たりの予備力市場価格を計算すると、 $8000/h ÷ 20MW = $400/MWh、すなわち、Reserve price = $400/MWhのように計算するようです。
※ここで、発電機B以外への予備力の割り当ては、発電機A、Cともに80MWまでなので、20&80~80&20までAとCの予備力配分が可能ですが発電機Aの予備力を80MWにすると、発電機Aのエネルギー供給220MW、発電機Bのエネルギー供給180MWとなり、エネルギー市場調達合計価格が高くなって、最適調達にはなりません。
戻って、CASE1の予備力市場価格を考えると、発電機Aに関して、予備力としての割り当ては80MWとなっていますが、もともと必要な供給量が200MWなので、機会損失 = 0、すなわち、Reserve price = $0/MWhということのようです。
この考え方で本当に良いのかどうか、CASE3で検証してみます。
CASE3では、必要な供給量が700MWなので、エネルギー市場で経済調達を行う場合、発電機A(300MW)、発電機B(400MW)でちょうど700MWとなりますが、やはり発電機Bの予備力は100MWまでなので、発電機Aの予備力を20MW、発電機Cの予備力を80MWとしています。
そのため、発電機Aのエネルギー供給は300→280MW、発電機Bのエネルギー供給は400→300MWで、これだけでは足りないので、エネルギー供給の合計を700MWとするためには、発電機Cのエネルギー供給120MWが必要となります。
発電機Cで120MWエネルギー調達するためのコストは、$700 + $1×120 = $820なので、エネルギー価格は資料の解答:Energy price = $820/MWhとあっています。
機会損失額は、発電機Aが$820/MWh(LMP)×20MW - $100/MWh(オファー価格) × 20MW = $14400/h、MW当たりの予備力市場価格を計算すると、 $14400/h ÷ 20MW = $720/MWh となります。
発電機Bも、本来400MWエネルギー供給するところを、予備力として100MWを供給しなかったことによる収益の機会損失額を計算すると、$820/MWh(LMP)×100MW - $500/MWh(オファー価格) × 100MW = $32000/hとなり、MW当たりの予備力市場価格を計算すると、$32000/h ÷ 100MW = $320/MWh。
そこで、予備力市場価格としては、高い方の$720/MWhということではないかと思われます。
CASE4でも検証してみましょう。
CASE4では、必要な供給量が829MWなので、エネルギー市場で経済調達を行う場合、発電機A(300MW)、発電機B(400MW)、発電機C(129MW)となりますが、予備力供給量の制約で、発電機Bの予備力は100MWまでなので、発電機Aの予備力を20MW、発電機Cの予備力を80MWとします。
そのため、発電機Aのエネルギー供給は300→280MW、発電機Bのエネルギー供給は400→300MW、発電機Cのエネルギー供給は129→249MWとなります。
発電機Cで249MWエネルギー調達するためのコストは、$700 + $1×249 = $949なので、エネルギー価格は資料の解答:Energy price = $949/MWhとあっています。
では、予備力価格も計算してみましょう。
機会損失額は、発電機Aが$949/MWh(LMP)×20MW - $100/MWh(オファー価格) × 20MW = $16980/h、MW当たりの予備力市場価格を計算すると、 $16980/h ÷ 20MW = $849/MWh となります。
発電機Bも、本来400MWエネルギー供給するところを、予備力として100MWを供給しなかったことによる収益の機会損失額を計算すると、$949/MWh(LMP)×100MW - $500/MWh(オファー価格) × 100MW = $44900/hとなり、MW当たりの予備力市場価格を計算すると、$44900/h ÷ 100MW = $449/MWh。
そこで、予備力市場価格としては、高い方の$849/MWhとなり、資料のReserve price =$849/MWhと一致しました。
CASE5ですが、最初、これは資料作成時のミスではないかと思いました。
CASE5では、必要な供給量が840MWなので、これまでと同様に考えるなら、エネルギー市場で経済調達を行う場合、発電機A(300MW)、発電機B(400MW)、発電機C(240MW)となりますが、予備力供給量の制約で、発電機Bの予備力は100MWまでなので、発電機Aの予備力を20MW、発電機Cの予備力を80MWとすればよいはずです。そこから、発電機Aのエネルギー供給は300→280MW、発電機Bのエネルギー供給は400→300MW、発電機Cのエネルギー供給は240→260MWとなり、発電機Cで260MWエネルギー調達するためのコストは、$700 + $1×260 = $960なので、エネルギー価格は資料の解答:Energy price = $950/MWhとあっていません!
予備力価格も、発電機Aの機会損失額:$960/MWh(LMP)×20MW - $100/MWh(オファー価格) × 20MW = $17200/h、MW当たりの予備力市場価格を計算すると、 $17200/h ÷ 20MW = $860/MWh となり、資料の解答:Reserve price = $850/MWhより高くなっています。
ここで、注目しなければならないのが、Penalty Factorの$850/MWhです。
PJMマニュアルM11の「4.3.3 Reserve Demand Curves and Penalty Factors」によると、いわゆるメリットオーダーで予備力市場価格を計算した結果がPenalty Factorを超える場合、その市場価格を付けた電源は予備力市場をクリアできなかったものとするという記述がありました。そこで、発電機Aが予備力市場に提供する量を20MW→10MWに減らした場合を考えると、エネルギー供給に関しては発電機A:290MW、発電機B:300MW、発電機C:250MWで、エネルギー市場価格を決定する発電機Cのエネルギー調達コストを計算すると、$700 + $1 × 250 = $950となります。そして、発電機Aが予備力市場用に10MW「キープ」するための機会損失額は、$950/MWh(LMP)×10MW - $100/MWh × 10MW = $8500/h、MW当たりの予備力市場価格に換算すると、 $8500/h ÷ 10MW = $850/MWh。そして、発電機A、B、Cが提供する予備力合計は10 + 100 + 80 = 190MWで足りない10MWも、Penalty Factorの$850/MWhとなるということですね。
これで、エネルギー価格、予備力割り当てともに、資料の解答と一致しました!
2回にわたって、昨年10月1日から始まった予備力市場制度改正の話から横道にそれてしまいましたが、PJMの予備力市場価格決定メカニズムを解明し、ご紹介しました。
これであっていると思うのですが、もし誤解している部分がありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。
終わり
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