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引き続き、今年7月に米国パシフィック・ノースウェアスト国立研究所(PNNL)が公開した報告書「Transactive Energy Communication Interface Standards Landscape(TE通信インターフェイス標準概欄)」のご紹介です。

今回は、TE通信インターフェイス標準概欄の付録部分をご紹介します。

では、はじめます。

 


 

 

付録A – TE関連標準の比較

ここでは、4章で紹介したTE関連の標準を比較するための大まかな視点を示します。二次元の風景(表.1から表.4)では、標準の詳細なギャップを示すことはできませんが、アプリケーションの範囲、相互運用性の成熟度、およびTEの概念とアプローチのカバレッジの観点から、標準間の類似点と相違点を示しています。

なお、IEEE P2418.5「ブロックチェーンエネルギー標準」はガイドであり、相互運用性のカテゴリを厳密に指定していないので、比較対象に含めていません。

 

A.1 相互運用性のカテゴリとアクタードメインでの比較

次の表は、GWACスタック(図.3)の相互運用性のカテゴリと、図.1のアクタードメインで、TE関連の標準のカバレッジを示しています。

表 1: 相互運用性のカテゴリとアクタードメインの風景

 

  • OASIS CTS: この標準は、TE市場のメカニズムを使用して顧客と対話するDERコーディネータを対象としています。適用範囲には、機器コントローラと通信するためのプロトコルは含まれず、他の手段(メーター管理システムまたは他のメーター通信プロトコル標準)を通じて計測が行われることを想定しています。また、ネットワーキングプロトコルの上位に位置付けられ、TEのビジネスコンテキストとビジネスプロセスを持つ情報モデルが含まれていますが、標準化プロセスでは、経済/規制政策との整合性が欠落しており、相互運用性を確保するために政策立案者と協力して働く組織のエコシステムも含まれていません。
  • EFI: この標準は、機器コントローラからの標準的な方法で、さまざまなタイプの機器の柔軟性を表現するための情報モデリング面に重点を置いています。XMLで指定されており、構文的な相互運用性をサポートしていますが、ネットワーキングプロトコルや特定のビジネスプロセスの相互作用をカバーしていません。その点で、トランザクティブシステムを補完する標準となっています。
  • USEF UFTP: このプロトコル仕様は、DERアグリゲーターとDSOの間のTE市場の対話を対象としています。この作業は、アグリゲーター(すなわち、DERコーディネータ)がDERを制御するための独自の手段を持っていると仮定しています。USEFは、顧客との対話のプラットフォームとしてPowerMatcherを例にしています。このため、UFTPをDERの調整に使用する能力は不明確です。このプロトコルはヨーロッパのプロジェクトで実装されていますが、政策立案者の関与はプロジェクトベースで行われているようであり、標準そのものではないようです。
  • OpenADR: この標準は、デマンドレスポンスアプリケーションを起源としています。動的な価格とデマンドレスポンスイベントの配信をサポートしていますが、TESの明示的なサポートはありません。OASIS CTSとの調和が議論されている可能性がありますが、OpenADR 3.0はTE市場を明示的にサポートすることなく、CTSとは別の道を歩もうとしています。OpenADRは、機器コントローラと計測との対話がその仕様の外で処理されると仮定しています。カリフォルニア州では、政策立案者がプロジェクトの実装に関与していました。
  • IEEE 2030.5: IEEE 2030.5は、経済/規制政策カテゴリの側面をカバーしていることが示されています。これは、カリフォルニアのルール21に関する共通のスマートインバータープロファイルの経験からであり、複数のサービスプロバイダーの管轄区域での複数の技術ソリューションプロバイダーとの高度な統合が含まれています。5のカバレッジはOpenADRと似ていますが、特定のデバイス制御のモデリングと対話が含まれています。TEの観点からすると、これは市場インターフェイスの機器に依存しないTEの性質から逸脱しています。

 

A.2 TECMとIMMの成熟度で比較

次の表は、相互運用性の成熟度(図.4)とTECM(図.7)の主要な概念から、TE関連の標準のカバレッジを示しています。

 

表.2: TECMとIMM成熟度から見た比較

  • OASIS CTS: OASISは、公認の標準開発プロセスに従ってCTSを作成しています。それには主要なTECMの概念をサポートする側面を含んでいますが、計測情報への対話は他のシステムと標準に委ねています。エネルギーの相互運用とeMIXはしばらく前から存在していますが、CTSは比較的新しく、フィールド実装は知られていません。そのため、相互運用性の成熟度レベルは「Defined」レベルとしています。
  • EFI: この仕様は、機器コントローラからの柔軟性を表現することに焦点を当てています。FANによって定義されており、これは公認の標準開発組織ではありません。そのため、成熟度の評価はワンランク下の「Managed」としています。
  • USEF UFTP: USEFは、系統運用者がDERアグリゲーターと対話するためのトランザクティブマーケットの豊富な仕様を持っています。これにより、トランザクティブ・エージェント、トランザクション、およびその合意の概念がサポートされます。この図で表現されていないギャップは、柔軟性リソースを所有・運用する顧客との対話の仕様が欠けていることです。USEFも公認の標準開発組織ではないため、成熟度は「Managed」レベルにしています。
  • OpenADR: この仕様は、トランザクティブマーケットの対話を明示的にサポートしていませんが、OASIS eMIXとエネルギーの相互運用標準の側面での調和がありました。仕様は機器コントローラと対話し、動的価格(dynamic price)とイベントに基づくトランザクションの概念があります。OpenADR Allianceは公認の標準開発組織ではありませんが、その仕様はIEC/PAS標準として認識されています。また、多くのデマンドレスポンスプロジェクトで展開されており、仕様とユーザーの実装ガイドはステークホルダーとのアップデートプロセスを経ています。これにより、成熟度レベルとしては「Defined」レベルにしています。
  • IEEE 2030.5: IEEE 2030.5のTE概念のカバレッジはOpenADRと似ています。TEメカニズムを特にサポートしていませんが、仕様と実装プロファイルの側面は価格に応答してサポートするために使用できます。SunSpec Allianceとの協力により、テストおよび認証プロセスを持つ実装プロファイルが作成されました。標準のエコシステムは、アップグレードパスに敏感な標準の複数のバージョンを供給しており、互運用性成熟度レベルは、「Defined」レベルより1つ上の「量的に管理された(Quantatively Managed)」レベルとしています。

 

A.3 相互運用性の横断的課題と成熟度での比較

次の表は、相互運用性の成熟度(図4)とGWACスタック(図3)の相互運用性の横断的な課題を考慮して、TE関連の標準のカバレッジを示しています。

 

表.3: 相互運用性の横断的課題と成熟度から見た比較

  • OASIS CTS: CTS標準は、相互運用性成熟度モデル(IMM)の横断的な問題のほとんどをカバーしています。これは他のインターネットおよびウェブサービス標準に基づいています。システムのアップグレードとコンフィギュレーションのサポートが、状態管理手法によって明確に定義され、広く受け入れられています。そのサイバーセキュリティと暗号化手法も明確にされています。ただ、この標準に関してフィールド経験やアップグレードが不足しているため。相互運用性の成熟度としては、「Defined」と「Managed」に係るレベルとしています。
  • EFI: 柔軟性の表現に使用される情報モデルとして、EFIは相互運用性の設定と進化の側面をカバーしています。ただし、他の横断的な問題はこの仕様でカバーされていません。FANは公認の標準開発組織ではないため、成熟度レベルは「Managed」としています。
  • USEF UFTP: USEFも公認の標準開発組織ではないため、その成熟度レベルは「Managed」としました。ただし、UFTP仕様は、相互運用性の横断的な問題を広くカバーしています。
  • OpenADR: OpenADR仕様も相互運用性の横断的な問題を広くカバーしており、IECとの接続によって「Defined」の成熟度レベルにあります。
  • IEEE 2030.5: 2030.5についてもOpenADRと同様です。IEEE-SA作業グループとSunSpec Allianceとの強い相互作用は、実装プロファイル、テスト、認証を含み、成熟度レベルを高めています「Quantitatively Managed」。さらに、暗号化キーオーソリティが設定されていて、プロジェクト実装でのサイバーセキュリティ成熟度を高めています。
  • IEEE P2418.5: IEEEの5のドラフトレポートはガイドです。作業は、安全な分散システム相互作用のためのデジタル台帳技術に焦点を当てています。これは、セキュリティと安全性の横断的な相互運用性問題に関連する初期および管理された成熟度レベルに焦点を当てていることを説明しています。

 

A.4 相互運用性のカテゴリとトランザクティブな相互作用領域に関するTE関連標準の比較

次の表は、GWACスタックの相互運用性のカテゴリ(図.3)とトランザクティブエージェントモデルのトランザクティブな相互作用領域(図.5)を考慮して、TE関連標準のカバレッジを示しています。ほとんどの標準は一部の発見および登録プロセスをカバーしていますが、主に操作プロセスに焦点を当てており、計測と検証、および決済/調整をプロジェクト固有の仕様に委ねています。

 

表.4: 相互運用性のカテゴリとトランザクティブな相互作用領域でのTE関連標準の比較

OASIS CTS: CTS標準は、トランザクティブシステムの相互作用のライフサイクルを説明しています。エネルギーサービスプロバイダーによって詳細な顧客登録と資格審査プロセスが設定されることを期待していますが、標準の中で、パーティ識別子を作成し、CTSマーケットプレイスに登録および登録するために必要なメッセージを規定しています。トランザクション以前の交渉過程「Negotiation Process」とオペレーション過程「Operation Process」をカバーしています。決済に使用できる計測情報を表す情報モデルが存在しますが、センシング機器へのアクセス「Measurement & Velification」と実際の決済「Settlemeny/Reconciliation」は対象外です。

EFI: この標準は、構文的「Syntactic Understanding」および意味的「Semantic Understanding」な相互運用性カテゴリでの柔軟性表現に関連しています。これらは操作時および他のソフトウェアがトランザクティブな相互作用を生成する際に関連しています。

USEF UFTP: UFTP仕様書は、表4の全域を横断するライフサイクルを説明しています。資料には、フレームワークとともに、DSOとDERアグリゲーター間でTE市場を設定するアプローチも説明されています。

OpenADR: 仕様書とユーザーガイドは、デマンドレスポンスサービスを発見し登録する方法を説明しています。ただし、顧客の資格と登録情報の詳細はプロジェクト固有であり、プロファイル化されていません。デマンドレスポンスの交渉「Negotiation Process」と操作「Operations Process」のためのVTNとVEN間の相互作用は説明されていますが、計測と検証「Measurement & Verification」、および決済「Settlement / Reconciliation」の詳細はカバーされていません。

IEEE 2030.5: 2030.5は、相互作用のライフサイクルに関してOpenADRに類似しています。実装プロファイルの経験と形式化は、プロジェクト固有の詳細の仕様を強化します。さらに、これらのプロファイルに政策立案者が関与することで、経済/規制政策の側面が相互運用性をサポートすることを確認するのに役立ちます。

付録 B – TE定義における論点

TEの定義にはサービスの交渉価格に関する双方向の合意が含まれています。ここでは、TESに関連する標準化と相互運用性に影響を及ぼす可能性があるいくつかの問題について議論します。

 

  • TEの定義について: GridWise Architecture CouncilのTEの定義は抽象的であり、様々解釈の余地があります。そこで、TESがTESであると主張するために持っていなければならない資質についての議論が続いています。実務家の意見の不一致の一つの領域は、TESが参加する消費者と生産者からの利用可能なエネルギーの柔軟性のフィードバックを含む必要があるかどうかです。要するに、「価格の因果関係について沈黙し、メッセージング・フィードバック信号を必要としない価格反応型アプローチは、TESとして適格なのだろうか?」という議論です。本報告書は、価格発見メカニズムを明示的にサポートするための双方向の交渉インターフェイスをサポートする標準機能と、一方向の価格反応型の標準機能を区別します。もうひとつの論点は、「経済的または市場ベースの構成要素を使用することが、価格シグナルを使用しなければならないことを意味するのかどうか」ということです。例えば、エネルギーの柔軟性を一元的に計算し、TESにおける直接的な需要応答を通じて実現することは可能でしょうか?本報告書は、分散型意思決定アプローチを欠き、直接制御を必要とする標準機能を非トランザクティブとして区別します。
  • 送電網の領域について: TEが送電網全体に適用されるのか、TEが配電事業者とその需要家の間でのみ適用されるのか、さらに狭義には、TEが特定のビハインド・ザ・メーター資産にのみ適用されるのか、議論が続いています。一方、一部のイノベーターは、TESを送配電網に依存しないものと考え、参加者の役割と責任は、参加者がどこに居住しているかに関係なく定義されています。極端に言えば、エネルギーに関する意思決定が行われる可能性のあるあらゆる場所(発電所、変電所、フィーダー、変圧器、構内、配電盤など)にTEノードを配置することができます。
  • 分散型意思決定と集中型意思決定について: TESにおける意思決定はどの程度分散化されていなければならないのか?分散型意思決定は、層分解の調整原則が遵守されている場合、TESで実現可能です(Taft, 2019)。これは、グローバルな目的が分散したシステムの位置間でコンポーネント(またはサブ問題)の計算を割り当てることで達成できることを意味します。原則として、分散型意思決定はシステムの複雑さを減少させ、制御アクションの遅延を減少させます。本報告書は、分散型意思決定をサポートする可能性のある標準を強調しており、したがって、トランザクティブ・エージェントのコミュニティ、彼らの意思決定権限の明確なライン、および最適化問題の解決方法を分解する能力を強調しています。
  • 市場の目的について: 経済学者は、電力商品に適用できる経済効率の正確な定義を提供しています。TESは、これらの指標を使用して客観的に比較することができます。しかし、市場の結果は、再生可能エネルギー、CO2の排出削減、および社会的公正のような新しい社会的目的達成のために調整されます。これらの重みが変わると、市場の結果も変わりますが、このような加重の適用や時間の経過に伴う変更を促すプロセスは厄介であり、迷路のような規制の管轄区域を横断して見た場合、決定には一貫性がないことが多々あります。TESを設計する上で、そのような「経済・規制政策の相互運用性特性」に関連する価値をどのようにシステムに反映させるか、明確な仕様策定が必要です。
  • 市場のメカニズムについて: TESが取引を解決・確定するための有効な市場メカニズムは複数存在します。例えば、二者間取引、マッチングエンジン、両面オークションなどがあります。これらの例のメカニズム内でも、参加者の戦略は配信間隔の期間や、価値と数量を予測し計画する将来の思惑によって異なります。市場メカニズムは参加者の戦略を定義しませんが、多人数が参加するゲームのルールを整える役割を果たします。各参加者は、相互作用のための独自の戦略を開発する責任があります。しかし、市場設計(ルールを確立する)の調査は、不正行為を避けるか監視する機能の重要性を示しており、それでもなおプレイヤーが個々の目標に対して最良(公正)な戦略を求める自由を許しています。TES経験の未熟さは、市場メカニズムに関する重要な教訓があることを示しています。
  • 提供されるサービスについて: TEの革新者たちは、基本的な電力供給のスケジューリングを超えて、電圧管理のような新しいグリッドサービスにTEの実践を拡大しています。原則として一般的なエネルギー供給サービスから導き出される可能性のある需要とランピング(急増・急減)サービスは、TESに異なる要件を設定します。これらのサービスは相互依存的である可能性があり、TEを介した一つのサービスの提供が、他のサービスの提供を減少させる可能性があります。

 

 


 

今回は、PNNLの報告書「Transactive Energy Communication Interface Standards Landscape(TE通信インターフェイス標準概欄)」の付録A、Bの部分をご紹介しました。

「付録」とは言え、その内容は、TE関連の標準を比較しながら、それぞれの位置づけを理解する上で非常に重要なので、ほとんど全訳になってしまいました。

 

前々回(TE通信インターフェイス標準概欄―その3)の最後に、OpenADR3.0に関する感想として、OpenADRアライアンスは、OpenADRを正式なIEC標準の仲間入りをさせるため、OASIS標準から決別する目的でOpenADR3.0仕様を発表したのではないかと述べましたが、「A.1 相互運用性のカテゴリとアクタードメインでの比較」のOpenADRの説明で「OpenADR 3.0はTE市場を明示的にサポートすることなく、CTSとは別の道を歩もうとしています(OpenADR 3.0 takes a separate path from CTS without explicit support for a TE market)」とあり、やはりそうなのかなと思いました。

 

なお、TE通信インターフェイス標準概覧のご紹介がその1~その5までに別れましたので、まとめてPDF版にしました。こちらから通してご覧いただけます。

 

本日は以上です。

 

終わり