Boatyard east of Knowle near Solihull

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本業で手いっぱいで、ブログの更新がままならない状況が続いていますが、本日は、「同時市場」について、思うところがあって、キーボードに向かいました。

 


 

少し古い話ですが、2024年6月24日、資源エネルギー庁が設置した「同時市場の在り方等に関する検討会」で議論されてきた内容を、経産省総合資源エネルギー調査会-電力・ガス事業分科会-電力・ガス基本政策小委員会で、中間報告として説明したようです。

中間報告ということは、ある程度、実施に向けて目途が立ったのかと思い、確認のため、同検討会のこれまでの流れと現状を確認してみました。

同時市場?と思われている方もいらっしゃると思いますので、この検討会の設立趣旨にさかのぼって、「今なぜ同時市場か?」から確認していきたいと思います。

 

■設立趣旨

「同時市場の在り方検討会」は、電力システムにおける市場改革を推進するために設立されました。主な目的は、電源の安定した運用とメリットオーダーを同時に最適化するための新たな市場構造を構築することです。この市場は、実需給の数週間前から当日に至るまでの短期的な需給バランスの調整を目的としています。また、中長期的な需給において、発電設備の投資や燃料の確保が重要であり、これらの要素も考慮した市場設計が求められています。

 

■第1回から第11回の検討会での議論の流れ

  • 第1回検討会 (2023年8月3日):検討会の設立趣旨と目指すべき市場の基本構造が議論され、同時市場の導入に向けた具体的なステップや技術検証の進め方が示されました。ここでは、起動費や最低出力費用の補填に関する課題や、価格算定ロジックの検討が重視されました。
  • 第2回検討会 (2023年9月20日):「電源起動・出力配分ロジックの技術検証会」が設置され、具体的な技術検証項目についての報告が行われました。特に、システム運用に関する複数のロジックの検証が中心に議論され、実装に向けたステップが確認されました。
  • 第3回検討会 (2023年10月23日):市場運用における費用便益分析の初期段階の報告が行われ、価格算定における海外事例の調査やロジック構築における技術的な特徴が議論されました。
  • 第4回検討会 (2023年11月27日):同時市場の中で、特定の需給調整市場における運用制約の検証が行われました。ここでは、セルフスケジュールとSCUC・SCEDロジックの関係性が取り上げられ、調整力の定義が改めて議論されました。
  • 第5回検討会 (2023年12月27日):技術検証が進展し、シミュレーション結果が初めて提示されました。議論は主に、電力系統における複数制約をどのようにモデル化し、それに対応するかに焦点が当てられました。
  • 第6回検討会 (2024年2月5日):ロジック技術の実装に関する検討が進み、前日の時間前同時市場におけるSCUC・SCEDロジックの挙動が詳細に議論されました。また、起動費の回収可能性に関する価格算定ロジックについても議論が深まりました。
  • 第7回検討会 (2024年3月18日):需給バランスの管理やインバランスの処理に関する議論が進み、同時市場の枠組みがより具体的に整理されました。この回では、特にシステムの安定運用に必要な制約の取り扱いが焦点となりました。
  • 第8回検討会 (2024年4月19日):「基本ロジックの構築」に関する多断面検証が行われ、電力系統の安定性を確保するための複数手法の検証結果が報告されました。セルフスケジュール電源の経済差替や系統制約の取り扱いに関する具体的な検討が進みました。
  • 第9回検討会 (2024年5月22日):時間前市場の導入を見据えた基本的な方針が示され、SCUC・SCED計算をどのように実現するかという技術的課題が議論されました。価格算定ロジックの精度を高めるためのさらなる検証が求められました。
  • 第10回検討会 (2024年6月19日):時間前同時市場に関する具体的な検証結果が報告され、前日市場や当日市場におけるロジック構築の進展が示されました。特に、SCUC・SCEDの計算システムが同時にどのように機能するかが焦点となりました。
  • 第11回検討会 (2024年8月19日):価格算定方法に関する中間取りまとめが行われ、前日の時間前市場における価格算定のロジックとその影響が詳細に議論されました。ここでは、Uplift(回収漏れ費用の補填)に関する検証も進められました。

 

このように、各回の検討会では、同時市場の設計と実装に向けて、技術的・経済的な課題を段階的に整理し、議論を深めています。

 

■検証Aと検証Bの議論内容および現状

これまでの11回の検討会の開催資料を見ると、「検証A:同時市場における電源起動・出力配分ロジックの技術検証」と、「検証B:同時市場における価格算定方法の検証」の作業が引き続き行われてきていますので、現時点の状況を整理すると以下のような感じです。

 

検証A:電源起動・出力配分ロジックの技術検証

  • 議論の主なポイント: 検証Aでは、電源起動と出力配分に関するロジックの技術検証が行われました。特に、発電機の起動費や最低出力費用の回収方法、電源ラインナップの最適化に焦点が当てられました。また、SCUC・SCED(統合された単位制約型経済派遣)ロジックを用いて、エリア単位での需給バランスを検証するモデルが構築されました。
  • 決着/未解決の問題: 現時点で、ロジックの基本的な動作検証は進んでおり、エリア単位での動作も確認されています。しかし、まだノード単位での検証や、火力発電特性のモデル化といった技術的課題が残っており、今後も技術検証会を通じて更なる検討が進められる予定です。

 

検証B:価格算定ロジックの検証

  • 議論の主なポイント: 検証Bでは、価格算定方法に関する議論が行われました。特に、標準的なSCUC・SCEDロジックを用いて複数のシナリオを検証し、市場価格やそのボラティリティ(変動性)、Uplift(回収漏れ費用)の発生を計測・比較しています。また、ΔkW(調整力)とkWh(エネルギー)市場の同時最適化による影響や、機会費用・逸失利益をどのように決済するかが議論されました。
  • 決着/未解決の問題: 検証Bでは、ΔkWとkWhの価格算定方法に関する検証が進んでいますが、まだ複数のシナリオにおける詳細な価格算定の効果検証が継続中です。これにより、価格決定方法やUpliftに関する最適な解決策が模索されています。現時点では、基本的な検証は進んでいますが、今後の市場価格構造の設計にはさらなる議論が必要とされています。

 

検証Aと検証Bの両方において、技術的な進展は見られていますが、最終的な価格算定方法や市場ロジックの細部については未解決の課題が残っています。特に、ノード単位での細かな制約をどう扱うか、ΔkWとkWhの同時決済に関する実務的な課題が残されているため、引き続き検討が行われる予定です。

 

■タスクアウト項目の状況

同時市場における調整力の区分・必要量については、数値検証等も踏まえた技術的な検討が必要であることから、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の「調整力の細分化及び広域調達の技術的検討に関する作業会」にタスクアウされ、第8回会合において、作業会からの終報告が行われていますが、内容を見ると、以下の通り、まだ技術的な検討や調整が続いている印象があります。

  • ΔkW価格算定方法の進展状況:PJMの価格算定方法を参照し、ΔkW価格の精算プロセスや、機会費用・逸失利益の規模感が詳細に検討されて、日本の同時市場でのΔkW価格算定に関する方向性が明確化されました。
  • ΔkW約定量の特定方法:ΔkW確保に必要な供給量をどう割り当て、約定価格をどのように算定するかについての議論が行われ、具体的な方法が検討されています。
  • 前日市場とリアルタイム市場の関係:ΔkW価格精算に関して、前日市場とリアルタイム市場の統合的なアプローチが示され、リアルタイム市場でのΔkWの差分精算が議論されています。

 

■中間報告の内容

6月24日に電力・ガス基本政策小委員会で報告された『「同時市場の在り方等に関する検討会」の中間報告について』の内容を要約すると以下の通りです。

  1. 検討会の背景と目的
  • 再生可能エネルギーの大量導入や、電力市場での調達の効率化・安定化を図るために「同時市場」を検討。現行のkWh市場とΔkW市場が分散していることや、再エネの変動性が市場運用を複雑化させている背景が述べられています。
  • 同時市場は、kWh(電力量)とΔkW(調整力)を一体化して取引する仕組みで、発電機の特性を考慮した「Three-Part Offer」の導入が提案されています。
  1. 技術的検証と議論
  • 検証A:電源の起動と出力配分に関する技術的検証(SCUC・SCED)。市場参加者や専門家から技術的な評価を行い、電源の最適な運用方法を検討。
  • 検証B:価格算定ロジックの影響評価。複数の価格算定方法を比較し、市場価格やUplift(費用回収漏れ)の多寡を検証。
  1. 今後の課題
  • 入札規律や電源運用の具体化:市場に供出する電源の入札や、調整力の確保方法について、事業者間での最適化を図る仕組みが検討。
  • 費用便益分析:導入に際してのコストと効果を評価し、同時市場の妥当性を判断するための分析。
  1. 導入スケジュール
  • 同時市場の具体的な導入時期に関しては、技術的な検証や法的整理が進んでいる段階で、今後さらにシミュレーションや試行期間を設け、慎重に進めることが求められています。

 

この報告は、同時市場の詳細な設計と技術的な課題を中心に議論が行われており、最終的な決定は今後の検証やシミュレーション次第とされています。

 

■第11回検討会での中間とりまとめ

中間報告後初めて開催された第11回検討会では、検証A、検証Bの「中間とりまとめ」について議論しているので以下にその概要を示します。

 

検証A:電源起動・出力配分ロジックの技術検証

目的:

同時市場における最適化ロジックを構築し、電源起動や出力配分の効率化を図るため、SCUC(Security Constrained Unit Commitment)およびSCED(Security Constrained Economic Dispatch)ロジックを使用して、系統制約を考慮した電源起動の検証が行われています。

進捗内容:

  • 基本ロジックの構築と検証:ロジックの構築は完了し、エリア単位での動作検証が進められています。今後は、ノード単位のより詳細な検証を進め、火力発電の応動特性をモデル化していく予定です。
  • 買い入札を考慮したSCUC・SCEDロジック:エリアごとに買い入札を集約し、系統制約を考慮したモデルでの動作が確認されました。今後は、ノード単位での精緻な検証が行われる予定です。
  • 週間運用ロジック:週間計画に基づく電源起動の意思決定や、揚水発電の最適化を可能にするロジックの検討が進められています。今後、具体的なロジック構築が予定されています。
  • 調整力の同時最適化:kWhとΔkWを同時に最適化するロジックが導入され、変動性のある再エネの出力変動に対応するための検証が行われました。今後は、三次インセンティブの検証が行われる予定です。

残された課題:

技術的な検証は進んでいるものの、いくつかの論点については、引き続き議論と深掘りが必要です。特にノード単位での詳細な検証や、価格算定ロジックの最適化が今後の課題として残っています 。

 

検証B:価格算定方法の検証

目的:

検証Bは、同時市場における価格算定方法が市場価格や回収漏れ費用(Uplift)に与える影響を評価し、価格の安定性や透明性を確保することを目的としています。

進捗内容:

  • 価格算定シナリオの検討:

検証Bでは、標準的なSCUC(Security Constrained Unit Commitment)およびSCED(Security Constrained Economic Dispatch)ロジックを用いた価格算定が行われました。複数の価格シナリオを通じて、市場価格の平均値やボラティリティ(価格変動)、および回収漏れ費用の補填(Uplift)の検証が進められました。

  • 価格変動とUpliftの検証:

市場価格がどのように変動するか、特にΔkWの取り扱いによる影響を評価。特に、発電機の起動費や最低出力費用に関して、回収漏れ費用がどの程度発生するかが重要な検証ポイントとなりました。

  • 複数の価格算定方法の比較: 複数の価格算定方法を用いた比較検証が行われ、その結果、シャドウプライシングやELMP(Enhanced Locational Marginal Pricing)などが候補として挙げられました。これにより、Upliftを低減するための最適な価格算定手法が探られています 。

残された課題: 価格算定の精度を向上させ、Upliftを低減するためにはさらに詳細な検証が必要です。特に、ΔkW市場の価格設定や市場間の連携については引き続き議論が求められます。

検証Bでは、さまざまな価格算定方法が市場に与える影響が分析され、将来の市場設計に向けた重要な進展が報告されていますが、引き続き詳細な検討が必要です。

 


 

以上、ChatGPTに内容を要約してもらいながら、「同時市場のあり方等に関する検討会」での審議状況をまとめてみました。

検討会の流れを見ると、すでに同時市場の運用を行ってる米国PJM、ERCOT、CAISOの市場設計も参考にして議論が進んでいるのですが、1つ気になっているのは、容量市場との関係に関して議論されている様子が見えないことです。

 

これまで、PJMのNon-Synchronized Reserveおよび30-Minute Reserve市場の市場価格(容量価格)が常に$0.00/MWなのを、不思議に思いながら原因究明するには至っていませんでした。予備力が必要になった場合、供出したkWhについてはLMPに従って支払われるから、それでいいのかな?くらいにしか考えていなかったのですが、つい最近、「容量市場で落札された電源は、そこで容量価格をもらっているので、市場価格は0で良いのだ」と、遅ればせながら、思い至ったわけです。

ただし、これは、エネルギー(kWh)市場、アンシラリーサービス(ΔKW)市場、容量(KW)市場のすべてをPJMが運用しているのでうまくいくのであって、エネルギー(kWh)市場、アンシラリーサービス(ΔKW)市場の統合のみを考えている日本で議論されている同時市場はこれでよいのか?

これが、冒頭、「同時市場について、思うところがあって、キーボードに向かいました。」とした理由です。

 

最後に、『「同時市場の在り方等に関する検討会」の中間報告について』の資料から、これまでの検討会での議論の流れを補足する参考情報をいくつか再掲させていただきます。

 

 

本日は以上です。

 

終わり