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前回、『米国のスマートグリッドの標準化の動向』と題して、
- 米国エネルギー省と国立標準技術研究所(NIST)が、3段階で構成されるスマートグリッド標準化スケジュールを作成したこと
- その第一段階として、NISTが2009年9月に『NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards Release 1.0 (Draft)』を公開したこと
- その中の4章『スマートグリッドに関連する既存標準規格』の内容
米国が、とりあえずスマートグリッドに関する標準として採用しようとしている77の標準規格
をご紹介しました。
その際も、3章『概念参照モデル』部分が気になっていたのですが、その後、NISTのTWIKIで、更に詳しいスマートグリッドの概念モデルに関する説明『Smart Grid Conceptual Model』を見つけました。
そこで、今回は、その記述をベースとして『NISTの考えるスマートグリッドとは』に迫ってみたいと思います。
NISTスマートグリッド概念モデルについて
これまでも、スマートグリッドについては様々な組織が様々な定義を行ってきました。そこで、NISTでは、スマートグリッドについて、その特徴、ユーザ、振舞い、インタフェース、要件および標準規格を議論するたたき台として、いくつかの図と記述からなるスマートグリッド概念モデルを作り上げました。
これは決してスマートグリッドのアーキテクチャ自体を定義するものではなく、どのようなアーキテクチャが必要とされるか議論し、開発するためのツールです。スマートグリッドを実現するためには相互運用と標準規格についてどのように考えなければならないのか、また、スマートグリッドのアーキテクチャの開発をどのように進めていけばよいのか、その方向性を探るためのものとなっています。
では、まずトップレベルの概念モデルを以下に示します。
この概念モデルは、いくつかの「ドメイン」から構成されており、それぞれのドメインは、互いに「インタフェース」する「アソシエーション」で繋がった多くの「アプリケーション」と「アクター」から構成されています。
以下に、本概念モデルで使用する用語を簡単に説明します。
- アクター:装置、コンピュータシステムやソフトウェアプログラムと、それらを所有する組織。アクターは決定を下したり、インタフェースを通して他のアクターと情報交換したりすることができる
- アプリケーション:ドメイン内でアクターによって遂行されるタスク。1人のアクターが遂行するものと、複数のアクターが共同で遂行するものがある
- ドメイン:インタフェースの定義に当たって共通性を持つアクターをグルーピングしたもの。同一ドメイン内のアクターは類似オブジェクトを持ち、通信の特徴や要件も類似している(図.1で雲の形をしたものがドメイン)
- アソシエーション:双方向の関係性で成立する論理的な結びつき。アソシエーションの両端は、そのアソシエーションで結びつくアクターのインタフェースとなる
- インタフェース:電気的なつながりまたは通信上のつながり。 図.1では電気的なつながりを黄色で、通信上のつながりは青の線で表してある。これらのインタフェースは双方向でつながっている可能性が高い。通信インタフェースは、2つのドメイン(とドメイン内のアクター)間の情報交換を表しており、物理的なつながりではない。様々なドメイン同士がインターコネクトするスマートグリッドの情報ネットワークにおける論理的なつながりを示すものである
これらスマートグリッドを構成するドメインの概要を下表に示します。
ドメイン |
ドメイン内のアクター |
顧客 |
電気の最終需要家。ただし、単に電気を消費するだけでなく、発電、蓄電や、エネルギー利用管理も行う |
市場 |
電力市場のオペレータおよび市場参加者 |
サービスプロバイダー |
顧客側および電力会社側に対してサービスを提供する組織 |
運用 |
電気の移送の管理者 |
大規模発電 |
大規模の発電所・発電会社。後で電力供給するために蓄電することもある(揚水発電など) |
送電 |
遠隔地で「大規模発電」により生産された電気のキャリア。蓄電したり、発電したりすることもある |
配電 |
顧客に電気を届けるディストリビューター。顧客から電気を受けることもある。 また、蓄電したり、発電したりすることもある |
ドメインは組織ではないことに注意してください。例えば、ISO/RTOは、市場と運用の両ドメインにアクターとして登場します。同様に、配電会社は、配電ドメインだけに属すのではなく、配電管理システム(DMS)というアクターとして運用ドメインに、メーターというアクターとして顧客ドメインにも所属します。
NISTでは、スマートグリッド概念モデルを、連続的に詳細レベルを深めていく図で表現しています。
本概念モデル中では、ユースケースは、複数のドメインにまたがるいくつかのアクターを結ぶ経路で表現されます。 例えば次の図は、大規模発電、送電、配電ドメインにまたがる仮想的なユースケースを表しています。
概念モデルの目的は、既存の電力システムと、次世代送配電システムであるスマートグリッドに関して議論するフレームワークを提供することにあります。以降、このモデルの詳細を述べていきますが、その前に全体のスコープを示しておこうと思います。
注意:この概念モデルでは、スマートグリッド中のすべてのアクターやパスを洗い出す意図はありません。
NISTスマートグリッド概念モデルのスコープ
「スマートグリッド」という用語は、あるところでは配電自動化と同義語であったり、単に次世代自動検針やデマンドレスポンスの意味で用いられていたりしましたが、NISTスマートグリッド概念モデルは、特定のドメイン、アプリケーション、ユースケースに限定されるものではありません。本概念モデルでは、なるべく多くのユースケースやアプリケーションを包含しようと意図しており、(それに限定するわけではありませんが)米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)の規定した4つの機能的な優先事項 をカバーしています。
また、GWAC(GridWise Architecture Council)が作成した『相互運用フレームワーク: Interoperability Context-Setting Framework』に記述されているサイバーセキュリティ、ネットワーク管理、データ管理、アプリケーション統合の分野を横断した要件も取り込もうとしています。 このフレームワークのレイヤは、概念モデルのアクター、ドメイン、インタフェースに内在するものと考えることができます。
以下、顧客、市場、サービスプロバイダー、運用、大規模発電、送電、配電ドメイン個々の説明が続きますが、長くなるので、ここまでの内容を含めて、インターテックリサーチレポートNo.6にまとめました。
興味を持っていただけたら、そちらをご覧ください。
- 投稿タグ
- Smart Grid, 次世代送配電網, 次世代送電網
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