- 日本では、いつごろデマンドレスポンスが使われだすのか? -
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前回、『日本版スマートグリッドでデマンドレスポンスは必要か?』ということで、少なくとも、2020年型日本版スマートグリッドでは、デマンドレスポンスの出番がなさそう(ひいては、スマートメーターも、海外のスマートグリッドで用いられている機能範囲から大幅に機能縮小してまでも、急いで普及させる必要がないのではないか)という意見を述べさせていただきました。
では、日本では未来永劫デマンドレスポンスの出番はないのでしょうか?
今回は、10月26~27日に開催された「電力中央研究所フォーラム2010」の講演会の資料をベースとして、電力中央研究所(以下、電中研と略)では、いつごろどのような形でデマンドレスポンス(以下、DRと略)が普及していくと考えられているかをご紹介しようと思います。
では、始めましょう。
まず、結論です。以下は、同講演会の総括報告「わが国におけるスマートグリッドのかたち」の中で説明されているものです。
この中で、電中研では、太陽光発電の大量導入対応策として、2030年ごろにデマンドレスポンスの技術が必要になると見ていることが分かります。
その想定根拠を、同講演会の技術報告1「電中研のスマートグリッド研究」講演資料から拾っていきましょう。
ここでは、PV大量導入に伴う系統課題として、以下の5つがあげられています。
1)需要家側電源としての安全性、安定性
2)配電系の電圧管理
3)需給、周波数調整
4)電力余剰
5)系統事故時安定性
そして、それらの課題に対して
① PVシステム単体としての対策
② ローカルな配電対策
③ 配電系統対策
④ PVシステム側対策
⑤ 系統対策
⑥ 需要家側連携対策
の6種類の対策があげられ、DRは2030年ごろ、PV導入量が5300万kWになったころの対策⑥の一つとして位置づけられています。
上図のとおり、次世代送配電ネットワーク研究会(平成21年8月~平成22年4月活動)では、太陽光発電2800万kW導入ケースで、PV余剰対応として蓄電池とPV出力抑制に関するいくつかのシナリオが検討されています。その中で、シナリオ④:年間30日のPV出力抑制の対策コストが一番小さいとの結論に至っています。
これが、今回の制度検討会でも2020年まではPV側の出力抑制で対応できるとする根拠です。
※ただし、PV出力が2800万kWではなく、2700万kW以降では余剰電力対策として系統側に蓄電池の設置が必要と見込まれていることも分かります
太陽光発電導入目標:2800万kWの2020年までは、上図のように太陽光発電用PCSのカレンダー上、年間30日PV出力抑制を行う(上図、赤の部分)よう予め書き込んでおくと、その当日は、PV出力は行われないようになります。
ところで、上図にあるとおり、このような、予め停止日をカレンダーに指定する方式では、
- 実際には当日天気が悪く、PV出力抑制をしなくても良かったのにPV出力が抑制されたり(不要抑制)、
- 系統側でPV出力変動を吸収できる範囲内だったのにPV出力が抑制されたり(過剰抑制)
- カレンダーで指定されていた特異日以外の日にカンカン照りで、本来必要なPV出力抑制ができなかったり
することがあります。
また、カレンダー対応することで、PV導入量が3200万kW以下なら、休日/土曜のPVの余剰発生分として、本来オレンジ色の高さだったものが、目論見どおり出力抑制されている様子が分かります。しかし、PV導入量がもっと増えると、PV出力抑制日が、平日まで拡大していき、カレンダーでのPV出力抑制では対応が困難になってきます。(下図参照)
そこで、地域ごとの翌日の天候予測を元にして翌日の最大抑制ケースを想定し、双方向通信を利用して、PV出力抑制情報を各戸のPCSに伝達されれば、下図のように、平日の余剰発生も(休日や土曜日も)更に最適なPV出力抑制ができるようになるでしょう。
しかし、PVの大量導入が進めば進むほどPV抑制量/PV出力を抑制する日が増加します。
したがって、PV出力停止日を予めカレンダーに書き込んでおく方式から、通信を用いてPCSのカレンダーを書き換える方式に変更した場合も、そのうちに、土曜・休日ばかりではなく、平日もPV出力抑制を行う日が増え、何のために太陽光発電導入を促進するのか、訳が分からなくなってしまいます。
そこで、2030年に向けて更にPV導入量が増加した場合の対策として、PV出力を(抑制するのではなく)積極的に使うため、蓄電池の利用と、新たな需要創出が考えられています。
※電中研の報告では、需要創出対策として、(従来は電気代の安い夜間料金を使って湯を沸かしていた)給湯器の昼間運転する例をあげていますが、前回ご紹介したGridpoint社の、風力発電量に応じてEV充電量をコントロールするLoad Shapingも、DRによる需要創出対策に当たります。
以上、電中研の講演会資料を元にして、なぜ2020年型日本版スマートグリッドではDRの出番がないか、逆に、将来は日本でもDRが使われる可能性がありそうだということをご紹介しました。
なお、2010年3月、『将来社会を支える科学技術の予測調査 -科学技術が貢献する将来へのシナリオ』 というタイトルで文部科学省科学技術政策研究所科学技術動向研究センターが「NISTEP REPORT No.141 平成21年度科学技術振興調整費調査研究報告書」を作成・公開しています。
その「第Ⅱ部 グループワークによるシナリオライティング - 低炭素社会を実現するスマートグリッド」の中に、次のような日本版デマンドレスポンスの定義を見つけましたので、最後にご紹介します。
デマンドレスポンスプログラムとは、系統運用側から需要家に価格などのシグナルを送り、PVの余剰電力が大量に予想されるとき、分散エネルギーマネジメントシステム(HEMS、BEMS)などを介してヒートポンプ給湯器や電気自動車などのエネルギー貯蔵機能により、電力負荷の時間帯を調整し、系統の需給バランスを図るものである。
終わり
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