- OpenADRとスマート・インタフェース -

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今回は、米国OpenADRの最新動向と、経産省の「次世代送配電系統最適制御技術実証事業」課題③:系統状況に応じた需要側機器の制御技術の開発(スマート・インタフェース)動向をご紹介し、最後にデマンドレスポンス(以降、DRと略)の意味するところのまとめを行って、本デマンドレスポンスのブログ・シリーズを終了したいと思います。
なお、以下の図で出典が明記されていないものは、OpenADR 仕様書内のものです。

では、はじめます。

OpenADR

カリフォルニア州で2003年から行われてきた自動DR(ADR)フィールドテストのノウハウを集大成したものがOpenADR。デマンドレスポンス研究所(DRRC:Demand Response Research Center)が所属する米国ローレンスバークレイ国立研究所(LBNR)と、ADRサーバを設計したベンチャー企業:Akuacomの連名で、『OpenADR1.0通信仕様書:OPEN AUTOMATED DEMAND RESPONSE COMMUNICATIONS SPECIFICATION (Version 1.0)』にまとめられています。

このOpenADR1.0通信仕様書は、国際オープン標準コンソーシアムOASISのエネルギー相互運用技術委員会(OASIS Energy Interoperation Technical Committee)で採択されるとともに、米国国立標準技術研究所(NIST)でも、スマートグリッドに関連する重要な既存標準規格の1つに選ばれました。しかし、先行する関連規格(DRシグナル授受に関するIEC61850 / 61968などの国際標準規格や、ZigBeeアライアンスが策定したSmart Energy Profileなど)との整合性までは考慮されていませんでした。


出典:DRRC:Using Demand Response to supply transmission ancillary services

NISTは、このような、スマートグリッド関連標準を策定するに当たって早急に検討が必要な分野を特定して優先行動計画(PAP:Priority Action Plan)を策定しましたが、DRの仕様も、その1つ(NIST PAP 09:Standard DR and DER Signals)に指定されています。

これを受け、UCAIug(UCA International Users Group)の中にOpenADRタスクフォースが組織されて、10社20名以上の専門家が、OpenADR通信仕様version1.0をベースに半年以上をかけて、『OpenADR 1.0 System Requirements Specification』(以降、OpenADR SRSと略)にまとめ上げました。

その作業の実施に先立って、NAESB(North American Energy Standards Board)の SGTF(Smart Grid Task Force)がPAP 03、04および09の要求のとりまとめを行っています。(参考:NAESB – Overview of NAESB SGTF Recommendations for NIST PAPS 03, 04 & 09


出典:NIST Workshop 20090929-30

OpenADR SRS

さて、肝心のOpenADR SRSの内容ですが、以下に簡単にご紹介します。
まず、OpenADR1.0通信仕様書が、通信レベルに的を絞った仕様書であるのに対して、OpenADR SRSは、電力会社や需要家側の異種EMSなどが相互運用可能となるオープンなDRシステムを構築するための要求仕様書となっています。

また、DR関連シグナルだけでなく、DER(分散電源)も同時に扱う要求仕様になっています。

DRのアーキテクチャ

DRは、ハードウェア、ソフトウェア(DRMS)および、配電管理(DMS)や顧客情報管理(CIS)などの関連システム、データ管理アプリケーション(MDMS)から構成され、メーター、ゲートウェイその他の装置を備えた商業・産業顧客(C&I Customer)のビルや一般家庭の需要家(Residential Customer)の家屋と、下図のような通信ネットワークを構成します。

また、この図には表れていませんが、サードパーティの種々のシステムとも連携しています。

仕様書では、DRを構成するすべてのコンポーネントを同定し、OpenADRを実現するためのアーキテクチャの目標と指針が定められています。

OpenADRのビジネス・アーキテクチャ

下図は、DRシステムに関わる主要ステークホルダを示したもので、それぞれは、OpenADRビジネスプロセスで特定の役割を担っています。


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なお、それぞれのステークホルダに関連するユースケースは、OpenADR Use Caseチームにより、本仕様書とは別に「OpenADR Functional Requirements and Use Case Document」(全53ページ)にまとめられていますので、興味のある方はご覧ください。

次に、下図ですが、OpenADRの主要ビジネスフローを示しています。ビジネスロールごとにスイムレーンに分けられており、スイムレーン中のブロックは、そのビジネスロールが果たすビジネスプロセスになっています。

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DRプロセスフローは、①DR Administration、②DR Bidding、③Execute DR Eventと、④Post DR Event Measurement&Verification / Settlement の4つに分けられていることが分かります。
仕様書では、この後、ビジネスロールと、その主要な機能が定義され、続いて、OpenADRのインタフェースを体系化するために5つの論理コンポーネント(①Electricity Consumer、②DR Controlling Entity、③DR Asset、④DR Resource および ⑤System and Market Operator)が導入されて、その結果、簡略化されたビジネスフローが示されています。

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また、この論理コンポーネント間のデータフローを表したDFDダイアグラムが示されています。

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DR制御エンティティ

上図の中央にあるDR Controlling Entityは、米国では、地域の配電会社であったり、送電会社に指令を送る系統運用者(ISO/RTO)であったりします。後者の場合は、系統運用者からの指令を受けた電力会社が、一段下位のレベルのDR Controlling Entityとなって、地域のアグリゲータに指令を送り、そのようなアグリゲータは、更に一段下位のレベルのDR Controlling Entityとなって、エンドユーザである需要家に、DRに関する指令を送るというリカーシブな構造になっています。これを図で表すと次のとおりです。

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図中、RECは資源エネルギーコントローラー(Resource Energy Controller)、VENは論理終端ノード(Virtual End Node)で、DR Controlling Entityは、RECから見ると単一の資源に見え、内部的には、1つ以上のVENオブジェクトで構成される様子を示しています。
仕様書では、その後、ユースケースシナリオごとのサービス(Integration Service)を規定し、その技術要件を規定しています。

OpenADRのデータ・アーキテクチャ

本仕様書ではOpenADRのユースケースに基づいて以下の7つのデータオブジェクトが同定され、それぞれのデータ要件が規定されています。
① DR Customer Enrollment
② DR Asset (End Device)
③ DR Resource (Device Group)
④ Notify Demand Response Event
⑤ Demand Response Event
⑥ Forecast Demand (out of scope)
⑦ Asset / Resource Status (Monitor Demand Response Event)

OpenADRのテクニカル・アーキテクチャ

DRシステムを実装する上で、現在様々な技術が利用可能ですが、ここでは、相互運用性を担保するために必要なテクニカル・アーキテクチャが規定されています。
ネットワーク標準:OpenADRのサービスは、TCP/IPネットワークで作動し、主にHTTPSプロトコルに基づくものとされています。(セキュアFTPも可)
セキュリティ標準:OpenADRのデータを不正なアクセスから守るため、SECURITY PROFILE FOR THIRD PARTY DATA ACCESSの中で規定された制約・統制に準拠することが求められています。
サービス/リソース・パターン:ランタイム環境でPlug&Playを達成するに当たって、以下のネーミング基準が定められています。
① Information Object
② Service / Resource Name
③ Service Patterns (Webサービスのネーミング基準に準拠)
④ Operation Name (IEC 61989で規定された動詞のネーミングに準拠)
が定められています。

以上、簡単ですが、OpenADR SRSのエッセンスをご紹介しました。詳しくは、原本の要求仕様書をご覧ください。

次世代送配電系統最適制御技術実証事業

米国のOpenADRから、一気に日本の話題となりますが、次世代送配電系統最適制御技術実証事業は、平成22年度の経産省公募案件で、事業の目的は、「2020年における太陽光発電等の再生可能エネルギーの大量導入目標と系統安定化を両立するために、大規模電源から家庭までの送配電の全体制御・協調による高信頼度・高品質の電力供給システムの構築が必要となることから、太陽光発電大量導入時の課題を軽減するために、需要家内機器の最適制御方式、配電系統の系統電圧制御方式等の開発・実証等を行う」とあります。
また、実証事業の概要は以下のとおりです。

内容

体制


出典:「次世代送配電系統最適制御技術実証事業」の実施について

公募要領によると、事業実施期間は、平成22年度から平成24年度までの3年間となっており、同事業の中間報告のようなものがないかどうか調べたのですが、残念ながらインターネット上では何もヒットしませんでした。
唯一、先日傍聴させていただいた、第7回次世代送配電システム制度検討会WG1資料2-1によると、事業の進捗状況は以下のとおりです。

課題③に関して言うと、「複数メーカの設備をマルチベンダーで接続する技術」の開発ということですので、正にOpenADRに相当し、米国のOpenADRとの整合性が気になるところです。
同じく資料2-1には、代表的な研究内容として、課題③の需要側スマート・インタフェース(以下、スマートI/Fと略)部の説明がありました。。

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この図を見ると、電力量計とは別に存在するスマートI/Fが、家庭内の発電設備(PV等、将来はEVも?)の発電抑制と、家庭内の負荷設備(ヒートポンプ給湯器、EV等)の需要創出制御を司り、系統から需要側個別機器の直接制御は行わないオープンループ制御方式となっています。
このスマートI/FをVENと考えると、OpenADRのDR制御エンティティの図と良く似ていることがわかります。
また、従来のスマートグリッド関連キーワードで言うと、G2H(Grid to Home)/H2G(Home to Grid)の家庭側インタフェースがスマートI/Fと捉えることができます。
同じスマートグリッド関連キーワードでも、電気自動車のバッテリーからの電力利用を特別扱いしたV2Gなどは、オブジェクトモデリング的にはあまりよろしくない(EVのバッテリーも家庭内の蓄電設備の1つなので、系統側から個別に認識しなくても、HEMS 側の制御に任せば良い)と思っていました。
今後とも、OpenADRを視野に入れながら、課題③の研究開発をやっていただきたいと願っています。

DRの定義

これまでDRの定義をいろいろ見てきましたが、現在の日本で一番受け容れられやすいDRの定義は、以下ではないかと思います。

DRとは、系統運用側から需要家に価格などのシグナルを送り、太陽光発電の余剰電力が大量に予想されるとき、分散エネルギーマネジメントシステム(HEMS、BEMS)などを介してヒートポンプ給湯器や電気自動車などのエネルギー貯蔵機能により、電力負荷の時間帯を調整し、系統の需給バランスを図るものである
出典:「NISTEP REPORT No.141 平成21年度科学技術振興調整費調査研究報告書 第Ⅱ部 グループワークによるシナリオライティング - 低炭素社会を実現するスマートグリッド」

しかし、OpenADR SRSが単にDR関連シグナルだけでなく、DER(分散電源)も同時に扱う要求仕様になっているのが端的な例ですが、米国でのDRの捉え方は、更に進化している気がします。新しいキーワードはFast-DR。これは、ADRのアンシラリーサービスへの適用の意味で使われているようです。

突然ですが、「デマンドレスポンス-その5」の中で、1つ訂正があります。
2009年PG&E社がDRRCと共同で、DRが生み出す電力削減量を発電所の発電量に見立ててカリフォルニア州の卸売電力取引市場(一日前市場)で売買する試み(PLP:Participating Load Pilot)がなされているとご紹介しました。
HPに掲載した元の資料上、「Participating Load Pilot Wholesale DR w/PG&E」だったのと、他の資料でも「Pacific Gas and Electric Company (PG&E) proposed a Participating Load (PL) pilot for summer 2009 deployment tailored for over 200 kW Commercial and Industrial (C&I) sectors utilizing the existing Auto-Demand Response (Auto-DR) infrastructure in order to acquire additional information to integrate DR with the wholesale market.」というような記述があったので、PG&E社が、契約電力200KW超の大口需要家いくつかを束ねてADRで負荷制御し、削減が見込める電力をカリフォルニア州の卸売電力取引市場(Wholesale market)で売買するものと思い、そのようにご紹介したのですが、今回、再度別の資料を読んでみると、卸売電力取引所(CALPX)ではなく、系統運用者(ISO)が管理するリアルタイム電力市場で、DRによる電力削減量をアンシラリー・サービスとして提供するパイロットテストのようです。
従来、電力会社/発電会社が瞬動予備力(Spinning Reserve)として火力発電所の予備の発電機で対応していた電力を、火力発電機よりもすばやく立ち上がるDR(=Fast-DR)で確保した(負の)電力で置き換えることが可能かどうかの実証試験だったようです。ここにお詫びして訂正します。

なお、Fast-DRに呼応して、これまでのCPP(Critical Peak Pricing)のような、前日にDRイベント発生を予告し、需要抑制するタイプのDRをSlow-DRあるいはDay-Ahead DRと呼ぶようです。
そして、これらを第1世代のDR、RTP(リアルタイム価格)連動でのDRを第2世代のDRとすると、Fast-DRは第3世代のDRということになります。
米国での系統運用におけるDRの位置付けをまとめると、下図のようになります。

出典:BONVILLE POWER ADMINISTRATION -Demand Response in the Pacific Northwest

以上、今回は、米国のOpenADRと日本のスマート・インタフェース研究。そして、日米の最新のデマンドレスポンスの定義に関連して、ご紹介しました。

デマンドレスポンスのブログ・シリーズは、これで終了にします。

終わり