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しばらくブログへの投稿を休ませていただいていましたが、その間に東日本大震災が発生し、災害にあわれた皆様には、心よりお悔やみとお見舞いを申しあげます。

さて、デマンドレスポンスでOpenADRという用語が出てきましたが、それとよく似た用語で、OpenADEというのがあるのですが、お聞きになったことがあるでしょうか?
OpenADEは、Open Automatic Data Exchangeの略で、直訳すると「公開された自動データ交換」とでもなるでしょうか? でも、これでは何のことかよくわからないですね。
Google検索で出現数を比較すると、OpenADEはOpenADRの50分の1以下の出現率なので、まだまだスマートグリッド関連用語としての市民権獲得には至っていないようです。

※”OpenADR”も、”Smart Grid” のGoogle出現頻度に比較すると、80分の1くらいですが。(2011年5月7日現在)

そこで、今回は、OpenADEとは何かを確認した上で、スマートグリッドにおけるポジショニングを考えてみようと思います。

OpenADEに関連する組織

smartgridipedia.orgは、スマートグリッド関連のユースケースや、ビジネスケース、プロジェクトステータスその他もろもろの情報交換をするオープンな場として2008年9月に運用を開始したサイトで、その中でOpenADEは次のように定義されています。

OpenADEは、OpenSG小委員会のSG systemsワーキンググループ内に設けられたタスクフォース名である。

つまり、OpenADEは、タスクフォースの名前だったんですね。
下図はOpenSGの組織図ですが、4つあるワーキンググループの1つ、SG Systemsの下でOpenADEが、OpenADR、OpenHAN(家庭内のHAN:Home Area Networkに接続された機器を制御するための仕様の策定を担当)、AMI-Enterprise(電力会社のバックオフィスシステムとMDMSの間の情報交換や制御を行うための仕様策定を担当)と同格のTFとなっていることがわかります。
※OpenADR TFについては、「デマンドレスポンス-その5 - OpenADRのその後」の中でも触れました。


出典:UCAIug - 「About OSGug

米国国立標準研究所(NIST)のスマートグリッド概念モデル上、OpenSG、OpenADEとOpenHANは下図のようなポジショニングをとっています。


出典:UCAIug OpenSG - 「PAP10 Customer Domain Involvement

また、これらの図の出典に記したように、OpenSG自体は、UCAIug:UCA International Users Group(2011年4月7日現在、全世界173社の電力会社・機器ベンダ等で構成され、公益企業の通信アーキテクチャ=UCA:Utility Communication Architectureを検討する国際ユーザー・グループ)の中のOSGug:Open Smart Grid Users Groupの技術委員会です。

ついでに、UCAIug内のOpenSGのポジションを以下で確認しておきましょう。


出典:UCAIug ― 「About UCAIug」

この図から、UCAIugには、OpenSGだけでなく、CIM(IEC61970/61968)やIEC61850の国際標準にかかわっているグループもあることもわかります。
IECのような標準規格策定機関(SDO:Standard Development Organization)とUCAIug、業界団体は、下図のように役割分担を行って機能しているようです。


出典:PG&E - 「Connectivity Week 2010 :How Can Standards Be Regulated?」

OpenADE-TFの役割

では、OpenADE-TFは、何をするタスクフォースなのでしょうか?
Smartgridipedia.orgの「OpenADE Charter」によると、

OpenADEは、


需要家が、自分の消費した電気に関するデータに対して第三者からのアクセスを許可するため および

その需要家の認可に基づき、電力会社が標準の相互運用可能なマシン・ツー・マシンの(M2M)インタフェースを使用して第三者に需要家データを提供するための


ビジネス要件、ユースケース並びにシステム要求仕様を策定するTFである

とされています。

しかし、何のために、このような需要家データの第三者アクセスのM2Mインタフェースが必要なのでしょうか?
それは、スマートグリッドがもたらす恩恵を最大限に利用するために他なりません。

OpenADE推進の背景

残念ながら「2020年型日本版スマートグリッド」では、家電機器などHANデバイスの制御は対象外となっていますが、米国型スマートグリッドでは、従来の需要家が、自分でエネルギー消費を管理する賢い消費者になるとともに、太陽光パネルなどで発電した電気を提供する供給者の立場になってもらうことを前提に考えられています。
そのためには、ESCOのような第三者に自分の消費データを見せて専門的な見地からコンサルテーションやクラウド型でのHEMSサービスを受けたり、電力消費データを基にして新規ビジネスを展開する事業者に個人情報である電力消費データを有料で提供したりすることも考えられ、第三者への電力消費提供の仕組みが考えられている訳です。

OpenADEのバージョン

OpenADE1.0という記述がネットサーフィンすると見つかるのですが、タスクフォース名にバージョンがあるのは変ですね。実は、OpenADE-TFが策定したビジネス要件、ユースケース並びにシステム要求仕様の成果物のセットに対してもOpenADEの名前が用いられており、現在OpenADE1.0とOpenADE2.0のバージョンが存在します。
OpenADE1.0と2.0の違いは、1.0が電力会社のCIS(Customer Information System)から需要家の消費データが提供されるのに対して、2.0では、OpenHAN2.0およびSEP(Smart Energy Profile)2.0と連携して、直接家屋内の機器から消費データをアクセスするようです。


出典:UCAIug OpenSG – 「OpenADE 2.0 System Requirements Specification

以上、今回は、OpenADEの概要をご紹介しました。

 

話は、大震災に戻りますが、地震、津波に加えて原発事故が発生し、福島の方はさぞ大変だろうと思います。また、原発関連の業界関係者も、原発事故の早期解決に向けて大変な努力をされているものとお察しします。
現在建築中、計画中の原発を含めて、原子力行政の抜本見直しの動きも出ていますが、では、原子力に代わって、再生可能エネルギーを増やすため日本版スマートグリッドが加速されるかというと、逆に、遅くなる可能性の方が高いのではないかと懸念しています。
東京電力はいうに及ばず、電力各社とも、従来の想定以上の地震・津波に対して、保有している原発の安全性の再点検/強化に予算をつぎ込まざるを得ず、スマートグリッドを含めて、他のシステム化予算が抑えられるのではないかと思うからです。

また、逆にこれまで議論されてきた「2020年型日本版スマートグリッド」では、スマートメーターを各戸に設置したとしても、需要家の家電機器の制御までは行わないので、需要抑制が行える訳ではありません。
そして、もし今いくら電気を使っているかの「見える化」を通して一般家庭の“需要抑制”を期待するのなら、双方向通信が必要なスマートメーターとその通信インフラに投資しなくても、スタンドアローンで作動する安価な省エネ監視機器を配れば十分ではないかと思います。
そして、OpenADE2.0/OpenHAN2.0/SEP2.0を参考にして、HANデバイスを遠隔監視・制御できるよう、スマートメーターとホームゲートウェイのあり方を十分検討したのち、スマートメーターを展開した方が良いのではないでしょうか?

固まってきた?日本版スマートグリッドの中身-その3」でも指摘させていただきましたが、日本中の電力使用の全体最適を図るという目的でスマートメーターを導入するのなら良いのですが、「2020年代のなるべく早い時期にスマートメーターを100%導入する」こと自体が目標となっているとしたら本末転倒ですので、是非、これを機に再考していただきたいものです。

終わり