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しばらくブログ更新が滞ってしまいましたが、今回はgreentechmedia:から届いた8/31付けの記事「Can Auto DR Meet the Needs of Renewables?」をご紹介したいと思います。

例によって、全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足が混じっていることをご承知おきください。では、はじめます。

ADRは、再生可能エネルギー大量導入の救世主となれるか?
LBNR、DR業界が直面しているニーズと課題を提示

2012年8月31日 キャサリン・トウィード(KATHERINE TWEED)

約1年半前、我々はデマンドレスポンス(DR)と再生可能エネルギーを統合するための課題について書いた。

統合するのは依然として容易ではないが、研究は進んでおり、統合への道のりが見えてきている。

風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー技術は、脚光を浴びて久しいが、まだまだ導入補助金やRPS制度(Renewables Portfolio Standard:これらの新エネルギー普及の目的で電力会社に一定割合で買い取りを義務付ける制度)がなければビジネスとして成立しない。カリフォルニア州のように早くからRPS制度が導入されてきた州では、これらの出力変動の激しい再生可能エネルギーを大量導入しても系統がバランスを保つための方法が模索されてきた。

ある調査では、2020年までに33%の再生可能エネルギーを導入するという同州の目標を達成するためには、5,000MWにおよぶレギュレーション(負荷変動に対して需給バランスを保つこと)およびアンシラリーサービス(周波数制御や、緊急事態に備えて供給予備力を確保すること)が必要だろうと報告されている。

アンシラリーサービスを拡充するために従来型の発電所を新規建設することも考えられるが、それに代わるものの1つとしてDRが考えられている。DRは、同等規模の系統用蓄電池と比べるとコストが1/10で実現でき、ピーク対応電源となる天然ガス火力発電所の建造コストと比べても遜色がない。また、建造時の初期コストばかりでなく、運用コストを考えても瞬動予備力(Spinning Reserve)のような待機運転の燃料コストがかからず、そのためのCO2排出もない。また、瞬動予備力や待機予備力(Non-spinning reserve)用発電設備の維持費や発電所員の人件費のような固定費も不要である。

このように、魅力的ではあるものの、現時点では、DRによる系統の需給バランスおよび電力品質確保には限界がある。LBNR(米国ローレンスバークレイ研究所)は、最近の調査で系統運用と商用のDRを統合する場合の課題(と解決の見込み)を明らかにした。以下は、LBNRの商業部門DRプロジェクト責任者Sila Kiliccoteの指摘である。

良いニュースから始めましょう。テレメトリー(遠隔検針)コストは既に十分安くなっています。LBNRが、DRをアンシラリーサービスに使えるか検討を開始したころ、必要な通信コストは、一軒あたり$70,000ドルでしたが、数年後に、それは$7,000ドルまで下がり、近からず$500くらいになると考えています。それには、携帯電話無線が4GやLTEネットワークに移行するのに加えて、より低コストの遠隔測定設備が不可欠です。

しかし、制御に関しては、いささか問題があります。

LBNRでは、2時間需要削減する場合と20分需要削減する場合の2つのアンシラリーサービス市場を調査しました。これらは、これまでのCPP/PTRのような電力メニューと連動する、いわゆるSlow-DRと呼ばれるDRと違って、系統運用者からの節電指令(発電機の場合の発電指令相当のもの)が出てから指示通りのネガワット(需要削減値のMW)に達するまでの要求が厳しくなっています。条件が緩い待機予備力でも、節電指令が出てから、2時間需要削減する場合は15分以内、20分需要削減する場合では5分以内に指示通りのネガワットを実現しなければなりません。瞬動予備力では、更に厳しく、系統運用者からの指令を受けてから数秒で要求を満たさなければならないのです。

現在の技術レベルは、既にこれらのFast-DRと呼ばれる新たな自動デマンドレスポンスの仕組みを実現できる段階に来ていますが、従来のSlow-DRの仕組みへの変更が必要となります。すなわち、15分/30分/1時間間隔でスマートメーターにより使用電力量を計測し、計測結果は、悪くすると1日後にシステム側にもたらされるのでは、電気料金算定に関して十分でも、アンシラリーサービスの指令に基づいて需要家が指示通り需要を削減したかどうかを確認するには十分ではないのです。LBNRでは、現在、この計測値のフィードバックループの高速化の研究をしており、まだ完成とまではいきませんが、何とかなりそうだとの感触を得ています。

 LBNRの調査では、アンシラリーサービスとして、ADRで0.18~0.9GWの待機予備力を提供できる可能性があることが分かりました。また、少し投資をしてADRを改良すれば、ほぼ2倍の2GWまでADRにより予備力を確保できるようになるでしょう。すなわち、BEMSを導入済みの商業ビルやデータ・センターを「ADR化」することで、それほど投資せずにアンシラリーサービス用のDR資源のストックができると考えています。LBNRでは一般家庭のDRはこのようなFast-DRの調査対象に含めていませんが、ソーカル・エジソン(SoCal Edison)社は一般家庭の負荷をアグリゲートしてアンシラリーサービスに適用する試験を行っています。

アンシラリーサービスにDRを適用するに当たって、自動化がキーポイントですが、系統運用の安定化のために顧客が果たせる役割を理解し、積極的にかかわってもらうための啓蒙活動も非常に重要です。LBNRでは、オフィスビル、小売店、食料品店、学校、病院がDRシグナルに応じて需要を抑制してくれると全体でどれほど負荷削減が実現できるかという技術的なデータを理解してもらうことで、DRによるアンシラリーサービスへの参加が倍増する可能性があるとみています。

もちろん、夜中に強風が吹いてもオフィスビルに明かりはついていませんが、冷蔵倉庫やデータ・センターがアンシラリーサービスを提供できるでしょう。現在は、大型設備を保有し、遮断可能負荷(Interruptible Load)契約とか、緊急時応答(Emergency Demand response)契約を結んだ少数の大口需要家のみが、DRサービスに応じていますが、今後は、1つのサイトで見ると、明かりをほんの少し暗くしたり、HVACの運転をほとんど気づかない程おさえたりするだけですが、多数のサイトで同時にそれを実施することで、大きな負荷削減を実現する形になるでしょう。

ただ、これで技術的な課題がすべて解決した訳ではありません。Fast-DRの実現に向けて、いつ、だれの負荷をどの程度DR資源として利用可能かの予測技術の発展が望まれます。また、天候に左右される再生可能エネルギーが大量導入されることを考えると、いつ、どこで、どの程度発電されるか/されなくなるかの予測技術も非常に重要です。風が止んだり、雲が出てきたりして再生可能エネルギーの出力が落ちた地域内でのネガワット調達が行えるような仕組みが理想的ですが、現在、アンシラリー市場と系統運用を、そのように連携する仕組みは構築されていません。米国東部の地域送電機関(RTO)であるPJMは、アンシラリーサービスへのDR資源調達に先進的に取り組んでいますが、それでも、そこまではできていません。でも、後2、3年でそのようなことが可能となるかもしれません。

もう1つ、DRをアンシラリーサービス市場に導入する牽引役となっているのが、OpenADR規格です。これは、カリフォルニア州で10年来行われてきたDR技術を集大成したものですが、OpenADRアライアンスが、相互運用性のある標準規格としてアンシラリーサービス市場などにも適用できるように整備を行っています。

ピンポイントでいろいろなADRの取り組みが、既に米国内各所で始まっています。

例えば、ベンチャー企業のViridity Energy社とEnbala Power Networkは、PJMプログラムの一部として、小規模プロジェクトを周波数調整市場に送り出していますし、EnerNOCは、ボンヌビル電力事業団管内の風力発電設備(2010年時点で3000MW、2013までに6000MWの設備容量になる予定)をほぼリアルタイムのADRを用いて需給バランスさせようとしています。

これらは、それぞれ1回限りのADR事例になってしまうかもしれませんが、すべての系統運用者は熱いまなざしで見守っています。

いかがでしょうか? 途中から、自分の思い入れが入ってしまって、原文を読まれた方からは、「こんなことまで原文では言ってないよ!」とおしかりを受けそうですが、そこはもとより、冒頭でお断りしていますので、平にご容赦ください。

ピーク負荷削減がDRに与えられた唯一の命題と考えられてきましたが、その後の通信技術の進展と、自動DRとしての標準化、計測値のフィードバックループ技術、需要/発電予測技術の発展で、自動DRによるアンシラリーサービス市場への道筋が見えてきています。日本でも、2020年に太陽光発電を2800万KWレベルにする政府目標がありますが、この大量導入に当たって出力変動をすべて現行の火力発電所だけで対応するには無理があるのではないでしょうか?その解決策として、BEMSアグリゲーターがADRを使ってアンシラリーサービスを提供することが考えられるのではないかと思います。また、既に電力会社と需給調整契約を締結している特別高圧顧客に対してのADR化も有効ではないかと思います。

なお、この度、このブログで書き溜めたデマンドレスポンスやOpenADRに関することをベースに、インプレスR&D インターネットメディア総合研究所から『デマンドレスポンスとOpenADR 標準の最新動向 2012』というタイトルで本を出す運びとなりました。早ければ11月発刊される予定です。それまではブログ更新が不定期となりますが、ご勘弁ください。

現在、本としてまとめるに当たって、ヨーロッパでのDRの動向の追加調査、DRプログラムの体系化、DRシステムの類型化など、ブログでは取り上げなかった部分の調査・整理に時間をとられているのも、ブログ更新が滞っている一因となっています。また、今回のブログの内容も、どちらかというと、元のキャサリン・トウィード氏の記事と、この本の中で書こうとしている、今後DRがどのようになっていくのだろうかという自分の思いが合わさった形になってしましました。

日本のDRとしてどのような形が望ましいのか、ブログをお読みいただいている諸兄のご意見・ご感想をお聞かせ願えれば幸いです。


終わり