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あけましておめでとうございます。今年もスマートグリッド、スマートメーター、デマンドレスポンス等に関連した話題を取り上げていこうと思っておりますので、よろしくお付き合いください。
さて、このところデマンドレスポンス(DR)実行結果の計測と検証(Measurement and Verification:M&V)の標準について取り上げていますが、今回は、その最終回としたいと思っています。
前回は、DRアグリゲーターであるEnerNOC社の白書『デマンドレスポンスの基準(The Demand Response Baseline)』より、「第2章 ベースラインの類型」をご紹介しました。これは、北米エネルギー規格委員会(NAESB)が業界標準として策定したWEQ-015のうち、DRを実施した結果、どれだけ負荷削減が行われたかを判定する基準となるベースラインをどのような考え方で計算すればよいかを解説したもので、WEQ-015よりわかりやすく詳細に記載されていたので、まずこちらをご紹介した次第です。
今回は、WEQ-015のうち、それ以外の部分を、北米電力信頼性協議会(NERC)のレポート「Demand Response Data Availability System (DADS) Preliminary Report」、ニューイングランド州のISOであるISO New Englandのレポート「Schedule 24 Amendment to Incorporate North American Energy Standards Board Standards for Wholesale Demand Response」、米国中西部のRTOであるMISOのレポート「FERC NOPR on Demand Response:Phase II」等から総合してご紹介します。
では、早速はじめます。例によって、全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足が混じっていることをご承知おきください。
WEQ-015 DR M&V規格の目的
このDR M&V規格は、北米の系統運用者(ISOあるいはRTO)が主催する卸売電力市場で、市場取引の一環として取り扱っているDRプログラムのM&Vに関して、以下の観点での共通フレームワークを提供するものである。
• 透明性(Transparency):種々のDRプログラムに関して実行可能でわかりやすいM&Vの要件を明らかにする
• 説明性(Accountability):正確にDR実行結果の測定を可能にする基準(Criteria)を明らかにする
• 一貫性(Consistency):全米のどの系統運用者が主催する卸売電力市場にも適用可能な標準規格にする
WEQ-015 DR M&V規格が対象とするDRプログラムカテゴリ
現在、北米の系統運用者がDR資源を利用して卸売電力取引市場の電力利用者に提供するDRプログラムは、以下の4つのカテゴリ/サービスタイプに分けられる。
1)エネルギーサービス(Energy Service): MWh単位で計測できる電力量をDR資源提供者から調達し、電力利用者に提供するタイプのDRプログラム
2)キャパシティサービス(Capacity Service):不測の事態が系統で発生することに備えて、定められた期間いつでもMW単位で計測できる電気容量をDR資源提供者から調達できる権利を確保しておき、電力利用者に安心して電気を利用してもらうためのDRプログラム
3)リザーブサービス(Reserve Service):系統が適切な信頼度基準を満たすために必要なキャパシティ(MW)をあらかじめ確保しておいてもらい、系統の逼迫度に応じて系統運用者の指示に従って実際に負荷(MWh)削減に協力してもらうタイプのDRプログラム
4)レギュレーションサービス(Regulation Service):系統の細かな負荷変動に追随して需給バランスを保つため、系統運用者の指示に応じて電力需要を増減してもらうタイプのDRプログラム。DR資源提供者は、系統運用者の需要増減指示に従いながら契約した期間中連続してDR資源を提供しなければならない。通常のDRプログラムと異なり、レギュレーションサービスでは、DRイベントの定義(「デマンドレスポンスに関連するもう1つの標準-その4」の図.1)にある時間区間の様々な定義は適用されない。
WEQ-015 DR M&V規格に準拠したDRプログラムの満たすべき基準
このM&V規格は、DR実施結果がもたらす価値を正当に定量化するため、使われる装置、技術、手続きの基準を規定するものである。
先に挙げた4種類のDRプログラムカテゴリのいずれに属するDRプログラムも、WEQ-015規格に準拠するためには、以下の基準を明確にしなければならない。
表.1 M&V規格が定めるべき基準項目
これらの基準は、DRプログラムカテゴリによって異なる。WEQ-015としては、そのいくつか米国標準となりそうな項目について、値を指定しているが、基本的にはDRプログラムを提供しているISO/RTOの運用マニュアル参照としている。
WEQ-015 DR M&V規格が推奨する実績評価ルールの類型
WEQ-015は、DR M&V実績評価ルールをこと細かく指定することはないが、これまで系統運用者が提供してきた実績評価ルールを整理し、以下の5つに類型化している。
1) 最大ベース負荷(Maximum Base Load):実際にどれだけDR資源が需要削減したかにかかわらず、当該DR資源の負荷削減能力に基づいて実績評価を行う方法
2) DRイベント前後の検針値比較(Meter Before / Meter After):DRイベント実施に先立つ特定期間の電力消費の検針値とDRイベント期間の電力消費の検針値を比較して、実績評価を行う方法
3) ベースラインタイプI(Baseline Type-I):DR資源の、インターバルメーターによる過去の時間帯ごとの検針値と比較することによって実績評価を行う方法で、天候の差異や曜日の差異に基づいた補正を行うことが多い。
4) ベースラインタイプII(Baseline Type-II):インターバルメーター値が利用できない場合に、同じような電力消費パターンの需要家の統計的な標本値と比較して実績評価を行う方法
5) 発電出力測定(Metering Generator Output):DR資源を提供する需要家がオンサイト発電機のような発電装置を保有しており、需要削減ではなく、発電によってDRイベントに対応している場合の実績評価法
WEQ-015 DR M&V規格に準拠したDR実施結果の実績評価方法が満たすべき基準
DRイベント実施後、各々のDR資源がどの程度需要削減に貢献したかを把握するのが実績評価法である。ここでは、先に挙げた4種類のDRプログラムカテゴリのいずれかに属するDRプログラムが、WEQ-015規格に準拠するために満たすべきは、実績評価法の基準を示す。
表.2 DR実施結果の実績評価方法が満たすべき基準項目
※これらの基準は、実績評価ルールによって異なる。今回参照した資料には、この基準を記載したものはありませんでした。
DRプログラムカテゴリと、適用可能な実績評価ルール
現在、卸売電力市場で使われている4種類のDRプログラムカテゴリで利用されている実績評価タイプは以下のとおりである。
表.3 DRプログラムカテゴリと適用可能な実績評価ルール
以上、NAESBの卸売電力市場向けDRの計測と検証に関する実務規格:WEQ-015をご紹介しました。
日本でもDRを本格導入するに当たって、ベースラインをどうするかは非常に重要な問題です。
DR資源調達者、DR資源提供者、また、DRアグリゲーターすべてが納得のいく実績評価法を採用する必要がありますが、これまで、あまり注目されていなかったのではないでしょうか?
とかくユースケースとしては、DRイベント/DRシグナルをどう取り扱うかに関心が集まりがちですが、DRの運用に当たって、例えば、一日前の事前通知型DRであっても、翌日DRを発動すると決定した時点から、翌日DRを発動するまでの間に、DR資源提供者すべてのベースライン計算を行わなければならないので、DRプログラム参加者が大量になると、DR発動前のこの処理が、DR発動時、DR発動後の清算処理以上に重くなる可能性がありますので、今後DRシステム実装に係わる方は十分留意願います。
終わり
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