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ちょっと仕事を詰め込みすぎ、久しぶりのブログ更新です。
昨年末(2012年12月20日)に、2012版の『Assessment of Demand Response & Advanced Metering Staff Report』がFERC(米国連邦エネルギー規制委員会)から発行されています。これは、2006年8月に発刊された初版から数えて、第7版となります。
米国のデマンドレスポンス(DR)とスマートメーター(SM)事情を知る上で非常に重要な情報がたくさん盛り込まれているのですが、かなりのページ数になるので、そのうちに。。。と思いながら、今までなかなかじっくり腰を据えて読む時間を取れませんでした。今回から何回かに分け、初版から7年間の米国におけるDRの変遷にフォーカスして、過去の版を含めて読み返し、まとめてみたいと思います。
と言いながら、やはり、じっくり腰を据えて読む時間が取れず、本日に至っています。。。 そして、
• 米国でDRが育ってきた中で、政府はどのような役割を果たしてきたのか?
• これまで使われてきたDRプログラムタイプごとの負荷削減可能量の差は何を示唆するのか?
• 米国内でもDR普及に地域差があるとしたら、その阻害要因・促進要因は何なのか?
を明らかにしていきたいと思います。
そこから、
• 今後日本でもDRが米国ほど利用されるようになるのか?
• もし、日本でのDRが伸びないとしたら、米国の例から見て、どのような阻害要因が考えられるか?
• もし、日本でもDRを伸ばそうと思ったら、どのような米国の政策その他の促進要因が参考になるか?
を考えてみようと思います。
と、意思表明していました。
前々回、まず、FERCが「なぜこの評価レポートを作成し始めたか?」から2012年版の発刊に至るまでのDRに関するFERCの活動についてご紹介し、FERCがDRの米国内での普及状況について、単に事後分析・評価を行ってきただけでなく、DRの意義をしっかりとらえ、大きな政令から全米各地の系統運用者(ISO/RTO)の動きに関する細かな勧告に至るまで、政策面でもDRの普及に向けて活動してきたことをご紹介しました。
順番からすると、今回は、これまで使われてきたDRプログラムタイプごとの負荷削減可能量の差は何を示唆するのかを分析することになっています。限られた時間の中でどこまでできるかわかりませんが、検討してみたいと思います。
では、早速はじめます。例によって、資料対象箇所の全訳ではないことと、独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっていることをご承知おきください。
1.DRプログラムの分類
DRプログラムによる負荷削減可能量の差について考えるためには、これまで使われてきたDRプログラムを分類しておく必要があります。
そこで、簡単に、FERCのサーベイがまとめた(ISO/RTOが運営するリアルタイム取引市場で利用されてきた)DRプログラムの分類を確認しておきましょう。
これは、基本的には、NERC(North American Electric Reliability Corporation:北米電力信頼度協議会)によるDRの分類を踏襲したものになっています。
図.1 DRプログラムの分類 図の拡大
出所:NERC 「2012 State of Reliability Report」
ここでのDRプログラム分類の基本は、以下の通りです。
• DRの中には、電力消費パターンの変化を制御可能なもの(Dispatchable)と相手任せのもの(Non-Dispatchable)が存在する。
• 後者(Non-Dispatchable)は、時間帯別の電気料金制(Time-Sensitive Pricing)を導入して、電気を使う時間帯を料金単価の安い時間帯に誘導しようとするもので、時間帯が固定の場合と、ダイナミックに変化させる場合がある。
• 前者(Dispatchable)には、系統の信頼性(Reliability)に基づくものと、単純に発電機からの電力供給よりもkWh当たりの調達コストが安ければネガワットを買い戻すもの(Economic)がある。
• 系統の信頼性(Reliability)に関するDRプログラムには、緊急事態に備えて容量(Capacity)を確保する保険のようなものと、実際に緊急事態が発生した時(Energy-Voluntary)のもの、更に、通常アンシラリーサービスと呼ばれる予備力(Reserve)と周波数調整力(Regulation)がある。
この考えに従って、FERCが全米のISO/RTOから、運用しているDRプログラムを提出させ、整理した結果が、以下の通りとなっています。
① 時間帯別料金(Time-of-Use Rate:TOU)
TOUは、DSMとしてすでに使われていた料金メニューである。時間帯ごとに従量料金が変わるため、定性的に系統の需給逼迫が予想されるピーク時間帯に価格が高くなるような料金設定を行うことによってピーク需要の削減を促し、電力供給の効率を高めることができる。季節によってピーク料金設定が異なることもあるが、基本的には、時間帯ごとで考えると固定料金である点が、他の電気料金ベースの需給調整メカニズムと異なる。
ピーク需要時間帯の料金を高く設定してピーク削除のために用いられるだけでなく、電気自動車(EV)の充電料金制度として、通常電力需要の低い夜間の電気料金を更に安くして、EV充電の時間を夜間の時間帯に誘導するような使われ方もある。
② 緊急ピーク時課金(Critical Peak Price:CPP)
TOUに対してCPPは、翌日特に需給が逼迫しそうな場合、前日のうちに「ピーク時間帯に電気を使うと通常のピーク料金よりも更に高い価格設定が適用されること」を需要家に通告し、需要抑制を促すものである。電力会社は、年間数十時間程度の緊急ピークに対応するためだけのピーク電源の確保に向けて、膨大な設備投資をしているので、確実にピーク需要を削減することができれば、設備投資の抑制に大きな効果があると期待されている。
③ リアルタイム料金(Real-Time Price:RTP)
電気料金の発電費用の部分を卸電力市場価格などと連動させ、1時間ごとあるいは30分ごとなど時間区分別の電気料金が日々異なる料金メニューが、RTPである。現在は、当日・当該時間(本当の意味のリアルタイム)の卸電力市場価格ではなく、前日の卸電力市場価格や、リアルタイム市場(電力需給調整市場)の前日予測値が用いられている。したがって、翌日24時間の各時間帯の電力価格をあらかじめ把握できるが、時間区分ごとに細かく電力価格が異なり、更に日々料金が変動するため、需要家が電気代を節約するにはそれなりの努力が必要である。
④ 送電混雑対応型託送料金(System Peak Response Transmission Tariff)
系統全体を見ると電力需要の過不足がなくても、特定の送電系統部分で冗長性がなく部分的に需給逼迫が発生しそうな場合、当該送電網に所属する需要家向けの時間帯電力料金を高く設定することで、送電混雑の解消を狙う託送料金メニューである。
⑤ 直接負荷制御(Direct Load Control:DLC)
DLCは、電力会社が家庭用や業務用のDSMとして提供してきたもので、契約に基づき、ピーク需要時に電力会社側からの遠隔操作でエアコン、給湯器やプールのポンプの運転を遮断もしくはサイクル制御 して、需要を削減する代わりに、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブが付与される契約である。日本でも、瞬時調整契約という名称で同様の需給調整契約を持つ電力会社が存在する。
⑥ 遮断可能負荷(Interruptible Load:IL)
主に業務用および産業用のDSMとして電力会社が提供してきたもので、DLCほどの瞬時性は求められないが、電力会社の要請に基づいてあらかじめ契約した通りに負荷遮断を行う代わりに、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブが付与される契約である。日本でも、随時調整契約という名称で同様の需給調整契約を持つ電力会社が存在する。
⑦ 直接負荷制御を伴うCPP料金(Critical Peak Pricing with Control)
CPPとDLCを組み合わせたDRプログラムで、需要家はCPPとして提示された価格を見て直接負荷制御を許すかどうか判断できる。
⑧ 負荷削減による容量確保(Load as a Capacity Resource:Capacity)
業務用および産業用の契約で、系統内の事故などに対応して即座に負荷削減可能な量を入札しておく。業務用および産業用の大口顧客で、電力会社や系統運用機関からの指示があれば即座に負荷削減できる場合、この契約を結ぶことによって、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブが付与される。
⑨ 瞬時予備力(Spinning Reserves:SR)
本来は、電力会社や系統運用機関が発電会社と締結する契約で、系統内の電源が停止するなどに対応して即座に出力を増加させるためのもの。業務用および産業用の大口顧客で、電力会社や系統運用機関からの指示があれば即座に負荷を削減できる場合、この契約を結ぶことによって、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブが付与される。
⑩ 待機予備力(Non-Spinning Reserves:NSR)
これも、本来は電力会社や系統運用機関が発電会社と締結する契約である。業務用および産業用の大口顧客で、電力会社や系統運用機関からの指示があれば数分間で負荷を削減できる場合、この契約を結ぶことによって、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブが付与される。
⑪ 緊急時応答(Emergency Demand Response:EmDR)
業務用および産業用の契約で、系統内の事故などに対応して即座に出力を増減させるためのもの。業務用および産業用の大口顧客で、緊急事態発生に伴って電力会社や系統運用機関からの指示があれば即座に負荷調整できる場合、この契約を結ぶことによって、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブが付与される。
⑫ 周波数制御(Regulation Service:Reg)
これも、本来は電力会社や系統運用機関が発電会社と締結する契約である。業務用および産業用の大口顧客で、電力会社や系統運用機関からの指示があれば周波数調整電源と同等のスピードで負荷を調整できる場合、この契約を結ぶことによって、電力会社に協力した度合いに応じたインセンティブが付与される。
⑬ 需要入札・買戻し(Demand Bidding and Buyback:DBB)
需要家側が当初使用を予定した電力量のうち、需要削減に応じても良い電力量を入札しておき、電力会社や系統運用機関側が必要に応じて買い戻すものである。
※各DRプログラムに付した数字は、図1内の数字と対応させてあります。
2.DRプログラム別ピーク負荷削減可能量の比較
図.2は、2012年版FERC DR評価レポートFigure 3-5「Reported potential peak reduction by program type and by customer class in 2012 FERC Survey」です。
図中のDRプログラム名の字が細かくて読みづらいので、1章でのDR分類番号を入れてあります。
図.2 DRプログラム別負荷削減可能量 図の拡大
出所:2012年版FERC DR評価レポート
この図のタイトルの原文(Reported potential peak reduction)にあるように、これは、現在ISO/RTOが実運用している個々のDRプログラムについて、彼らが把握している負荷削減可能量を、FERCが1章のDRプログラム分類に当てはめ集計した結果です。
グラフを作成するに当たって、右側には時間帯別の電気料金制を導入して、電気を使う時間帯を料金単価の安い時間帯に誘導しようとするDRプログラム(Time-based Programs)が、左側にはDRプログラムに参加することで何らかのインセンティブが得られるDRプログラム(Incentive -based Programs)が並べられています。
この図から、まず、DRというとCPPやRTPが有名ですが、負荷削減可能量で考えると、これらのDRプログラムのピーク負荷削減可能量は意外と少ないことがわかります。それよりは、単純なTOUの方が何十倍も負荷削減可能量が多くなっています。
※具体的に数値で比較すると、TOUの合計8141MWに対してCPPの合計は321MW、RTPの合計は1874MWなので、TOUはCPPの25倍、RTPの4倍以上です。
また、以下の上位4種類のDRプログラムで全体のピーク削減可能量の8割以上となっていることがわかります。
⑧Capacityが全体の29%
⑥ILが24%
⑤DLCが15%
①TOUが12%
これがDRプログラム間の定性的な傾向かどうか調べるため、2008年版 FERC DR評価レポートに掲載されていた同様のグラフと比べてみましょう。
図.3 過去のDRプログラム別負荷削減可能量比較-1 図の拡大
出所:2008年版FERC DR評価レポート
DRプログラムの分類が少し違っていますが、Time-based Ratesの中での負荷削減可能量を比較すると、TOU(937MW)よりもRTP(1637MW)が多く(1.7倍)、順位が逆転しています。CPP(180MW)はTOUより少なく、2008年時点でもTOUの方が5倍以上多くなっています。
また、ピーク削減可能量が多い上位6位(下記)はすべてIncentive-based DR Programsで全体の89%となっています。
⑤DLCが30%
⑥ILが22%
⑪EmDRが13%
次のMultipleというのは、内容がよくわかりませんが11%
⑧Capacityが7%
⑬DBBも7%
更に遡って2006年版 FERC DR評価レポートに掲載されていた同様のグラフと比べてみましょう。
図.4 過去のDRプログラム別負荷削減可能量比較-2 図の拡大
出所:2006年版FERC DR評価レポート
TOU(168MW)は更に少なくなってCPP(112MW)の1.5倍しかなく、RTP(1104MW)はTOUの6.6倍あったことがわかります。
逆にいうと、2006年から2012年にかけて、時間帯別の電気料金制(Time-based)を利用したDRプログラムでは、当初RTPが注目されていたけれども、次第に運用が単純なTOUに置き換わってきたと見ることができます。CPPや、CPR(Critical Peak Rebate)は、技術的には興味深く、DRの実証実験でも注目されがちですが、実際にピーク負荷削減可能性の高いDRプログラムとして、少なくとも系統運用者はあまり期待していないことが分かります。
2006年度調査の全体では、2008年度同様、インセンティブベースのDRプログラムが主流で、以下に示した上位6位のDRプログラムのピーク負荷削減可能量が、全体の87%を占めています。
⑥ILが26%
⑤DLCが23%
⑪EmDRが10%
⑬DBBも10%
Multipleが9%
⑧Capacityも9%
インセンティブベースのDRプログラムの2006年から2012年までのトレンドをまとめると、遮断可能負荷(IL)が常に上位を占めているのに対して、直接負荷制御(DLC)や緊急時応答(EmDR)、Demand Bidding(DBB)が減少し、代わって負荷削減による容量確保(Capacity)の伸びが目を引きます。これは、PJMやISO New England等の系統運用者が作り出した複数年を見据えた容量市場の仕組みが、単年度ごとの他のDR資源調達より優れているとの評価に基づくものではないかと思われます。
以上、今回は、DRプログラムタイプごとの負荷削減可能量の差と、その時間的な変化に注目してまとめてみました。
ただ、注意しなければならない点がいくつかあります。
その1つは、DLCという契約形態の比率は減っているかもしれませんが、容量市場で確保されたDR資源が実際に必要となった際や、アンシラリーサービスの実施に当たっては、自動DR/直接負荷制御で系統運用者やDRアグリゲータがDR資源調達を行うケースが多いと思われます。すなわち、DLCという契約形態が減少したという事実は、直接負荷制御が減少したことを意味するものではないということです。
もう1つは、MWとMWhの違いです。今回のグラフは、ピーク負荷(MW単位)の削減可能性に関するものであるため、ピーク負荷とは直接関係しない予備力や周波数調整力のようなアンシラリーサービスに関するDR資源調達の重要性が過小評価されてしまいます。アンシラリーサービスに供される電力は、MW単位で見ると小さな値かもしれませんが、緊急事態対応のDR資源調達ではなく、定常的な系統運用でのDR資源調達となるので、MWh単位でDR資源調達量を考えた場合、形勢が逆転する可能性があります。年間でたかだか数回のCPPと比べると、予備力の調達回数はもっと多いことが予想されますし、四六時中利用される可能性のある周波数調整力としてのDR資源は、更に調達量が多くなる可能性が高いからです。
当初考えられていた年間数回のためだけのDR資源調達から、より広範な非常時/緊急時の系統運用への適用、そして、周波数調整のような通常の系統運用への適用まで、DRプログラムのトレンドとして考えた場合、その適用範囲はどんどん広がってきているのではないでしょうか?
くどいかもしれませんが、再度下図を掲載して、今回のブログを終わりたいと思います。
図.5 DRプログラムの適用に関するトレンド
出所:インターテックリサーチにて作成
おわり
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