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米国コロラド州、ロッキー山脈のふもと、エモリー・ロビンズ夫妻がソフトエネルギーの利用を具体的に実証することを目的に建てたロッキーマウンテン研究所(以下、RMI)があります。このRMIが、最近プラグイン自動車に注目しており、関係専門家を集めて「Smart Garage」ワークショップを開催しています。

その内容は、日経エコロジー2009年1月号、ワールドトレンド欄の記事『from USA グリーンな電力インフラを構築、電気自動車でV2G実現』で簡単に紹介されたようですが、今回は、「Smart Garage」について掘り下げてみたいと思います。

IBMのTVコマーシャルではないですが、世の中は「Smart」ばやり。『Smart Garageは、直訳すると賢い車庫だから、Smart Houseのサブセットで、電気自動車(以下、EV)への充電と、場合によってはEVのバッテリーからの電気の有効利用を図る試みなんだろう』と想像された方は、当たりでもあり、はずれでもあります。

「Smart Garage」が、いわゆるV2G(Vehicle to Grid:EVのバッテリーから、グリッド向けに電気を送る)をいかに実現しようと考えているか-という点では、あなたの想像どおり。また、いわゆるゼロエミッションを目指す「Smart House」を構成する一員として、EVを捉えようとしている点でも、当たりです。

ただ、これまで、V2Gが、EVを、電気を供給し充電する対象であるとともに、系統電力逼迫時には電気を供給する側にも回ってもらおうという、あくまでも電力需給の観点(=電力会社の観点)からのコンセプトであるのに対して、「Smart Garage」は、EVを保有し、通常は電気を使う側の立場に立った、EVの観点からのコンセプトである気がします。

以下は、RMIが発行する「ソリューション ジャーナル」2008年7月号の記事『The Smart Garage (V2G): Guiding the Next Big Energy Solution』の超訳/抄訳です。


RMIは、これまでも、エネルギー、運輸、緑の建築(Green Building)という幅広い分野で指導的な役割を果たしてきたが、今や、これら3つが融合した「Smart Garage」という新たなエネルギーパラダイムを見据えた完全に新しい時代の先端に立っている。
「Smart Garage」は、車と家、オフィスが電力系統を介してシームレスに統合される大胆なアイデアである。そのシステムの構成要素間では、単純に電気の融通を行うのではなく、需要家がより安心して安くクリーンなエネルギーを使えるよう、より少ないエネルギーの使い方ができるよう電気を「シェア」するのだ。

発想は単純

17年前、RMIチーフサイエンティストのエモリー・ロビンズは、RMIの運輸関連のリサーチャーと、車および電力系統に関するコンセプトを作った。その発想は単純で、 以下のとおりであった。
電気で動く車は何らかの電気を蓄えるもの(バッテリー)あるいは電気に変換するもの(燃料電池など)を持っている。もし世の中の車がすべてEVになったなら、それらの車すべてが保有する電力は、系統に接続されたすべての発電所の電力をしのぐことは明白だ。したがって、停電やピーク需要で系統電力が不足をきたした場合、車が保有している電気を系統に戻すことができたら、新たな系統安定技術となる。
ところが、当時の技術水準を考えた場合、このアイデアが実現する見込みはなさそうだった。まず、配電網の末端につながったEVからの電気を利用できるような電力系統技術が存在しないこと。EVに使えるモーターも、バッテリーもない。始まったばかりの再生可能エネルギーの利用もおぼつかないし、インターネットべース/無線通信もまだまだ。。。

時代は変わった

ところが、今や、電力業界にほとんど興味のない人も、スマートグリッドという言葉を聞いたことがないという人はいないだろう。
スマートグリッドは、基本的には従来の電力系統と同じだが、構成要素となる装置それぞれがインテリジェンスを持ち、センサーや高速通信装置によって、事故や故障その他の情報を人間に代わって交換し合う点が異なっている。また、系統内の故障箇所の自動隔離や、デマンドレスポンス(電気が不足して、料金も高くなりそうなら顧客に連絡し、電気の使用量を控えてもらったり、他の時間に振り替えてもらったりする)のような機能を持つ。

一方、自動車業界でも、急激な進展があり、すべて電気で動く車=EVや、部分的に電気で動く車=PHEVが出てきた。参入障壁が高い自動車業界にあっては従来見られなかった新規参入の自動車会社(ZEN、Miles EV、Fisker、Phoenix、Aptera、Vectrix、GEM、Zap、Venture Vehicles)が「雨後の筍」のようにここ数年で出てきている。

また、太陽電池の進化とともに、緑の建築も大きな発展を遂げてきた。

この流れの中で、RMIがかかわってきたいくつかの緑の建築プロジェクトで「Smart Garage」パラダイム:車と家、オフィスを、電力系統を介してシームレスに統合する方向性が出てきたのである。

※ 記事は、この後も、続いていますが、とりあえず「Smart Garage」パラダイム出現の経緯が説明されるところまで行きついたので、興味のある方は、7月号の続きをご覧ください。

とりあえず、ここでわかったのは、RMIでは、17年前すでにV2Gのコンセプトを考えついていたということで、すごいですね。

そして、時は熟した!

ただし、では、すぐV2Gを実現できるのかというと、自動車業界、エネルギー業界、蓄電池産業、IT業界、通信業界それに建築業界まで?巻き込まなければならないとすると、旗振り役が必要。また、どのようにしてV2Gを実現するのか、コンセプトあるいは最終的なビジョンを示すだけでなく、そこにどうやってたどりつけばよいのか、何が障害となるかを検討する必要がある-ということで、RMIは、冒頭で紹介したように、2008年10月8日~10日、『Smart Garage Summit』と題したワークショップを米国オレゴン州ポートランド市で開催したようです。

参加者は、EPRI、NERL、マッキンゼー、MIT、カリフォルニア大学バークレー校のような研究調査機関、GM、フォード、北米日産のような自動車メーカー、Austinエナジー、Dukeエナジー、PG&Eのような電力会社、A123Systemsのようなバッテリーの会社、GridPointのようなスマートグリッドソリューションの会社、Itron、Comvergeのようなスマートメーターの会社、IBM、Cisco、GoogleのようなICT業界のビッグネームや、Coulomb TechnologiesやEcotalityのようなEV充電インフラのベンチャー会社、果てはWalMartまで49社の多彩な顔ぶれです。
※誠に失礼ながら、ロッキーマウンテン研究所というのをこれまで存じあげなかったのですが、1研究所の呼びかけに対して、これだけの有名企業からベンチャー企業までがワークショップに参加するというのは、よほどすごい研究所なんですね。

このときのワークショップの成果は、Smart Garage Charrette Report(本文65ページ、添付23ページ)で公開されていますが、長くなってきたので、サミットの内容の詳しい紹介は次回にしたいと思いますが。。。ほんの少し、中身を紹介しておくと:

RMIでは、電気自動車(V)とグリッド(G)の関係(VxG)を実装する段階に分け、将来像としてのV2Gとの対比で、次のように規定しています。

  • V0G(第0世代):現在の、EV充電スタンドにより、一方的にグリッドからEVへ充電する関係
  • V1G(第1世代):スマートメーターを用い、デマンドレスポンスと連動する「グリッドにやさしい」関係
  • V2G(第2世代):EVが、グリッドから電力供給を受けるばかりでなく、電力不足の場合は、グリッドに電力供給する関係
  • また、V2Gに移行する前段階として、以下を規定しています。

  • V2B(第1.x世代 Vehicle to Building):EVと、いわゆるゼロエミッションを目指すスマートハウスが必要に応じて電力融通する関係
  • B2G(第1.x世代 Building to Grid):スマートハウスと、グリッドが必要に応じて電力融通する関係
  • そうすると、V2G = V2B + B2G と表現できます。

    実は、現時点ではSmart Garage Charrette Reportをザッと斜め読みしたばかりなので、多分に私の想像(あるいは創造?)が混じっているのですが:

  • 従来V2Gといわれていたものは、どちらかというと、EVを、今後各家庭に常備される(かも知れない)バッテリーの1つと位置づけ、系統電力逼迫時に有効利用しようという考えであり、上の公式で言うと、B2Gに近いものであるのに対して
  • スマートガレージでは、

  • 家庭ごとのエネルギー利用最適化だけを目指すV2Bばかりではなく、
  • EV充電ステーションも「B」の一種と考えた場合、地域のEV充電インフラの中で、EVが充電するだけではなく、場合によっては電力提供する役割を担わせたV2Bにすることで
  • スマートガレージの定義にある「需要家がより安心して安くクリーンなエネルギーを使えるよう、より少ないエネルギーの使い方ができるよう電気をシェアする」に繋がってくるのだと思います。
    そして、そのために、EPRIやGMやPG&Eといった並居るビッグネームに混じって、前回「スマートグリッドと電気自動車」で紹介したCoulomb Technologiesのようなベンチャー企業が、ワークショップに招かれたのではないでしょうか?

    ということで、スマートガレージというのは、スマートグリッドおよびEV充電インフラの将来を見据えた壮大なコンセプトだという気がしています。

    Smart Garage Concept

    今後、12回に分けて、Smart Garage Charrette Reportを紹介していきますので、スマートガレージというパラダイム兼実現に向けての方法論?に興味を持っていただければと思います。